EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

ユーロ圏共通予算が欧州をポピュリズムから救う?

ルノー・日産カルロス・ゴーン氏の逮捕劇ですっかり陰に隠れてしまったけれど(笑)、独オラフ・ショルツ財務大臣と仏ブルノ・ルメール経済財務大臣は11月19日、マクロン大統領が2017年9月に発表したEU再構築構想(ソルボンヌ・イニシアティブ)の中で提案し、2018年6月に独仏首脳が設立で合意したユーロ圏予算について具体的な合意内容をユーロ加盟国に提示しました。EU改革を全力で進めたいフランス政府にとっては大きな前進でしょう。ブルノ・ルメール経済財務大臣は同日、「1年前はユーロ圏予算という言葉を口に出すことさえできなかった。今日、ここに独仏が合意した具体的な予算案がある。政治的に大きく前に進んだ」と胸を張りました。

 

その内容は、というとマクロン大統領の提案していたものから程遠いと伝えられます。例えば、ソルボンヌ・イニシアティブではユーロ圏予算を「ユーロ圏GDPの数%の規模」を想定していたのが、今回、独仏が合意した内容では「数100億ユーロ」にとどまっているというのです。本来なら、ユーロ圏GDPの1%と想定してもざっと1,100億ユーロ。うん、やっぱ少ない。メール大臣によれば、これを出発点にこれから大きくしていくとのこと。ちょっとずつ「共通予算」に対するドイツの抵抗を切り崩しくということなのでしょう。

 

このユーロ圏予算、マクロン大統領の提案では2つの役割があり、ひとつは将来の金融・経済危機に備えること、もうひとつはユーロ圏内で構造化した経済格差を是正するため、経済が脆弱な加盟国に対しイノベーション、研究開発、人材教育など投資する資金を確保すること。欧州で反EUを掲げるポピュリズムが台頭する背景に、2008年のリーマン・ショック以降、顕在化した加盟国間の経済格差があると見ています。とくに金融危機以降、EUが求めた緊縮財政を実施してきたイタリアは、債務危機こそ免れたものの、経済は困憊、国民の生活は豊かにならず、これが現在のポピュリズム政権を生む原因になったというのです。

 

欧州委員会で経済・財政問題を担当し、イタリア政府と現在、2019年予算法案の見直しで交渉中のピエール・モスコヴィシ氏(フランス元経済財務大臣、社会党出身)は9月25日のロイターとのインタビューで、欧州におけるポピュリズム台頭に歯止めをかけるために経済格差を是正する予算の導入だと説明しています。「ポピュリズムは民主主義、自由民主主義、法治国家への大きな脅威だ。この問題の解決は欧州のさらなる統合が必要となる。欧州危機はもはや経済危機ではない。経済格差の問題であり、政治危機だ。(加盟国同士の経済レベルを均一化するために)もっと分配するべきだ。ユーロ圏改革はその問題解決のためのものだ。極めて政治的な改革なのだ。」

 

独仏合意案がユーロ圏加盟国の支持を得られるかは不透明です。ドイツ以外にも北欧諸国は共通予算の導入に対する抵抗が強く、その必要性に懐疑的な声が多いと聞きます。「財政規律を重視する北欧から、放漫財政の南欧におカネを分配するシステム」になるのを懸念しているようです。北欧8カ国(オランダ、アイルランド、フィンランド、エストニア、リトアニア、ラトニア、デンマーク*、スウェーデン*)は2018年3月、マクロン大統領のユーロ圏改革を支持しない声明を発表していました。まずは南欧が構造改革を実施し、財政を健全化するのが先決、との考えなんですね(*ユーロ非加盟国)。

 

マクロン大統領はポピュリズム旋風が吹くのを抑えるため、2019年5月の欧州議会選挙前にユーロ圏共通予算の導入を決定し、EU改革に向けた実績を示したいところ。間に合うかな?