EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

ドイツが産業政策を転換、欧州レベルで保護措置を支持

ドイツが産業政策の転換に乗り出しましたね。2019年2月5日、独アルトマイヤー経済大臣は2030年に向けたドイツの国家産業戦略の中で、国がバイオ科学、人口知能、燃料電池など新しい産業に的を絞って集中的に介入する、EU域外企業による敵対的買収から政府ファンドを通じてドイツ企業を守る、(統合により)ドイツおよび欧州のチャンピオン企業をつくっていく、などの方針を示しました。国内では国家介入の強化に賛否両論あるようで、まだ政策が具体的に決まったわけではないですが、これまで「国は経済システムが秩序を持って機能するためのゲームのルールを策定し、監視する役割を担うが、ゲーム自体には介入しない」というポジションだった(はずの)ドイツが、国家介入を支持する方向に舵を切ったというのは、個人的にはちょっと驚きのニュースでした。

 

ルノー、日産に対するフランス政府のポジションがいい例だと思うのですが、国の経済主体への関与が強いフランスの経済システム「ディリジズム」に対し、ドイツの経済システムのベースとなる「オルド自由主義」では、国の役割を市場が自由に機能するための秩序、規制づくりに限定し、国は経済プロセスに介入すべきではないと考えられています。このためか、フランスでは大企業でも中小・零細企業でも経営困難に陥ると、国に支援を求めますが、ドイツの企業、産業界はこういった国の介入をとても嫌いますよね。自由競争に反すると。同じ欧州でもフランスとドイツで国の経済に対する役割が違う。というか、違ってた!

 

それが、ここにきてドイツが、フランス型のディリジズムに転換するわけではないにせよ、フランスの産業政策に同調するようになったというのです。仏ルメール経済・産業大臣と独アルトマイヤー経済大臣が2月19日に共同声明で発表した「21世紀に適応した欧州産業政策に向けた独仏マニフェスト」では、「強い産業力が欧州の経済的主権と自立を保障できる」として、①燃料電池、人口知能(AI)での共同プロジェクトの立ち上げ、②欧州競争政策の見直し、国による企業支援の容認、③欧州市場、企業、技術の防衛(外資規制の導入、政府調達市場参入における相互性の保障)などを柱にした欧州産業政策を提案しました。これってマクロン大統領が2017年のフランス大統領選で欧州政策プログラムの中で選挙公約していたもの。2017年9月に彼が打ち出した「ソルボンヌ・イニシアティブ」でも、欧州レベルでの産業強化・保護について謳われていましたね。

 

メルケル首相はこの共同声明をたたき台に、2019年3月のEU首脳会議で欧州産業政策の策定を議題にあげることを支持しているそうです。中国資本による独企業買収の増大、米国の保護主義への転換(ドイツを名指しで「敵」呼ばわり!)、ブレグジット、ポピュリズムの台頭とEU域内での不協和音の高まり・・・世界が激変するなか、ドイツも戦後の安定成長を支えたこれまでの成功モデルから、新たな経済システムへの転換を迫られているのでしょう。マクロン大統領が提唱した「EU再構築構想」をスルーしただけでなく、「ユーロ圏共通予算の導入」にはあれだけ強硬に反対したにもかかわらず、産業政策ではフランスが提案する国家介入による産業保護に同調する・・・でも欧州とかユーロ圏のためではないのが、ドイツらしいのかな。欧州レベルで産業保護を強化することで一番得するのは、経済に占める製造業の割合がEUの中で最も大きく、モノづくり力が強いドイツですもんね。ドイツは自国優先主義と批判する有識者が多いのもうなずける気がします。