EUとユーロの未来を考える

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欧州議会最大会派EPP、欧州委員長候補を選出。マクロン大統領はEPPの内部分裂を狙う。

2018年11月8日、中道右派の最大会派「欧州人民党(EPP)」はフィンランドの首都ヘルシンキで開かれた党大会で、2019年5月の欧州議会選挙に向けた同会派の候補者名簿順位1位に同会派の代表を務めるマンフレート・ウェーバー欧州議員を選出しました。ウェーバー議員は独バイエルン州出身で同州の「キリスト教社会同盟(CSU)」に所属、2004年から欧州議員を務めています。EUの政策執行機関である欧州委員会の委員長は、欧州議会選挙で多数派となった会派の候補者名簿順位1位の欧州議員が選出されるという仕組みになっているため(注)、事実上、ウェーバー議員が2019年秋に退任するユンケル欧州委員長の後任候補者に選ばれたことになります。

 

ウェーバー委員長誕生には、EPPが2019年5月の欧州議会選挙で多数派となることが条件になります。EPP(全751議席のうち215議席))の中で最大議席数を握るのは、メルケル首相の「キリスト教民主同盟(CDU)」CSU(34議席)。これにフランス保守「共和党」20議席が続きますが、いずれの政党も国内で支持率を下げているところ。CDU-CSUは10月に行われたバイエルン州、ヘッセン州の州議会選挙で議席数を落としたばかり。フランスの共和党もフィヨン候補が大統領選でマクロン氏とルペン党首に敗北したことから、今でも支持率を回復できていないし、ローラン・ヴォキエ党首に求心力がなく、党として漂流が続いている状態です。一部の報道ではEPPは次回選挙で50議席ほど議席を減らすのではないか、単独で多数派をとれないのではないか、と予想されています。

 

これは欧州議会の既存二大政党である保守EPPと中道左派「社会民主進歩同盟グループ(S&D)」を粉砕し、EU改革に向けた自身の政治勢力を創り出したいマクロン大統領にとっては追い風でしょう。欧州議会選挙を「進歩主義者(親EU)」と「国家主義者(反EU、極右・ポピュリズム)」の戦いに集約し、2017年のフランス大統領選のように「反極右」旋風で勝利をつかみたいマクロン大統領。国家主義者のリーダー格であり、マクロン大統領を「政敵」とするハンガリーのオルバン首相がEPPに属していることから、EPPに対し「我々は多くの課題についてメルケル独首相とハンガリーのオルバン首相の両方を支持することは不可能だ」と政治ポジションを明確にするよう迫っています。

 

ウェーバー議員がオルバン首相と親しい間柄であること(両者ともにキリスト教思想を欧州の共有価値として擁護)は周知の事実。ウェーバー氏は、9月に行われたハンガリーへの制裁を求める欧州議会の決議案にこそ、各方面からの圧力を受けて賛成票を投じたものの、除籍を求めるユンケル欧州委員長(EPP出身)ほどオルバン氏に対して強硬な姿勢を示していません。フランスの欧州問題担当大臣でマクロン大統領の「懐刀」といわれるナタリー・ロワゾー女史は11月8日、「EPPはつい数か月前まで(反EUで国家主義者である)ハンガリーのオルバン首相を擁護していたウェーバー氏を候補者名簿1位(欧州委員長候補)に選んだ。報道の多様性への抑制、法の独立性への脅威など、ハンガリーがEU創設の価値を違反するリスクを抱えているのにもかかわらず、だ」(ツィッター投降後、削除)とEPPの決定を強く批判しました。オルバン=ウェーバー・ラインを叩くことで、EPPの内部分裂を狙うものとみられます。今回のEPPの候補者に立候補しウェーバー氏に敗れたアレクサンデル・スタッブ前フィンランド首相は、オルバン首相に対し「我々の価値を尊重するか、EPPを離党するか、どちらかだ」と言及していました。

 

他方、欧州議会の第4政党である「欧州自由民社同盟グループ(ALDE)」(全751議席中70議席)は11月10日、マドリッドで行われた党大会で、マクロン大統領の与党政党「共和国前進」と「国家主義とポピュリズムに対抗するため共闘する」ことを決めました。「保守EPPが最大会派として欧州議会を支配する構図を覆す」とし、EPPや左派中道「社会民主新法同盟グループ(S&D)」など他の会派からマクロン大統領のEU構想に賛成する議員の参加を呼び掛けていています。また同グループの候補者名簿の1位となる議員に「我々はウェーバー(46歳)のような年寄りを選ばない」とし、フランス大統領選を39歳の若さで制したマクロン大統領のような若くてカリスマ性を持つ人物を選出するとしています。

 

(注)当初、欧州委員長はEUの政策決定機関であるEU理事会で各加盟国首脳の協議により選出されていたが、2014年の制度改正により、選出するのはEU理事会でも、就任には欧州議会での承認が必要となった。また欧州議会は民主主義を反映させるという理由で、欧州議会選挙で多数派を形成した会派の候補者名簿1位の議員しか委員長として認めないとの原則を定めたことから、事実上、各会派の候補者名簿1位の議員が欧州委員長の候補者に絞られることとなった。欧州議会の最大会派である右派中道「欧州人民党グループ(EPP)」で最大議席を握るのはドイツの右派CDU-CSU。ドイツ政府の意向が欧州議会に通りやすい構図になっている。今回の候補者選びでもウェーバー議員はメルケル首相の事前承認を得ていた。

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