EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

EUの反逆児ポーランド、西欧と東欧の歴史観・世界観の違いを強調

欧州では、とくにフランスでは、「ジレ・ジョーヌ」抗議デモ、ストラスブルグのテロ事件、フランス国内だけでなく、EU内でのマクロン大統領の信任低下、ブレグジットを巡る英国政治の混乱など世間を騒がせる事件が次々と起こっておりますが、今日はあえて皆様が日ごろ見過ごしておられるであろう「ポーランド」ネタを投稿します。なんて、読む人いないと思うから、こんな長い前置きどうでもいいんだけど(笑)。

 

保守政党「法と正義(PiS)」が政権を握ってから、ハンガリーと並んで「反EU」の旗頭になった感があるポーランド。最近の気になる動きをみてみると、

  • 2018年9月18日、ドゥダ大統領、訪問先のワシントンでポーランド国内における米軍基地「フォート・トランプ」の建設に向け20億ドルを供出することを提案。対ロシア戦略では西欧主要6カ国よりも米国、中東欧との連携を強める姿勢を打ち出した。(11月11日付けル・モンド紙)(←米軍からの自立を目指すマクロン大統領の欧州防衛構想に逆行・・・by pinotpinot3)
  • 2018年9月24日、欧州委員会はポーランド政府が新法で定めた最高裁判事の定年引き下げが「司法の独立」を定めたEU法に違反しているとしてEU司法裁判所に提訴すると発表。7月に施行された新法で判事の退職年齢を70歳から65歳に引き下げ。これにより72人の判事のうち27人が退職を余儀なくされる。
  • 2018年10月21日の地方選で「法と正義」は32.3%を獲得し、中道右派「市民プラットフォーム」を中心にした野党連合に勝利。ただし、ワルシャワ、ウッチ、ルブリンなど主要都市では野党連合が勝利しており、2019年秋の総選挙、2020年春の大統領選を控えPiSにとっては痛手となった。選挙キャンペーンの後半で「外国人排斥」を強く押し出したPiSに対し批判票が野党連合に流れた模様(10月23日付けル・モンド紙)

 

こうした動きを踏まえ、マテウシュ・モラヴィエツキ首相がル・フィガロ紙とのインタビュー(12月12日付け)の中で現政権が見せる「ポーランド・ファースト」を擁護しており、西欧との視点の違いが出ていて面白いので概要を訳してお伝えします。

 

(問)移民問題に対する西欧と東欧の意見の違いをどう説明するか

(答)経済発展の違いがある。ドイツは世界で有数の裕福な国だ。移民を受け入れる経済力を持つ。ポーランドはドイツほど経済力がないのに同じように受け入れなければならないのか?すでにウクライナから150万人を受け入れている。我々は(独メルケルと)異なるアプローチをとる。レバノンに流入したシリア難民向け学校・病院建設のために5,000万ユーロを拠出した。EUに難民を受け入れるより効率的だ。(←チェコのバビシュ首相も同じこと言ってたな・・・by pinotpinot3)

 

(問)ロシアの脅威に対する西欧と東欧の見方の違いをどう分析しているか

(答)ポーランドは第1次世界大戦後に独立したが、長く続かなかった。ドイツに攻撃され、ソ連に侵略され、50年間ソ連軍の支配下に生きた。ポーランドの特殊な歴史は我々の独立に対する強い執着を正当化する。我々は過去の経験からロシアがどれだけ隣国に損害を与えるかと知っている。(我々の態度は)決して攻撃的な態度を改めないロシアとの地理的な近い距離で大きな部分を説明できる。西欧は中欧によりロシアから守られている。独仏はロシアを通商・経済パートナーとしか見てない。だがロシアにとり経済関係は彼らの目的を果たすための手段にすぎない。我々もロシアと正常な経済関係を持ちたいが、そのためにはロシアが帝国主義的な野望を捨て、ウクライナ、ジョージア(グルジア)、チェチェンなど近隣諸国を攻撃することをやめなければならない。(←ロシアと隣接する国にとってロシア軍の介入脅威は常に現実レベルで存在する。旧共産圏はロシアの恐ろしさを今でも肌で感じている・・・by pinotpinot3)

 

(問)理想の欧州とは何か。

(答)唯一現実的な答えは「国家の(集合体としての)欧州」(une Europe des nations)を構築することだ。マクロン大統領が「フランス文化はひとつではない」というのがわからない(←マクロン大統領のフランスは多文化主義ですから、様々な文化が併存している、または混じり合っているという見方・・・by pinotpinot3)。私は、フランス文化は世界の偉大な文化のひとつだと思う。西欧ではキリスト教徒は少なくなっているが、東欧、とくにポーランドではキリスト教文化が心に響く。EUを豊かにすることができるのは我々の文化を救うことによってのみだ。逆はうまくいかない。なぜなら欧州の普遍的な価値(valeurs europeenes universelles)が存在しないからだ。我々は現実主義者だ。言語、利益の違いは欧州を決して合衆国のようにすることはないだろう。この発想は市民のニーズからかけ離れている。各国の利益を尊重しすべての国に発展することを可能にする「国家の欧州」に後戻りする必要がある。

 

(問)メディア、司法の独立を嘲弄すると糾弾された。新しい民主主義を目指すのか

(答)我々は前政権と同じようにメディアの自由を保障している。メディアの80%は外資および野党が握っていることをみても明らかだ。司法については我々のポジションを理解するために歴史をさかのぼる必要がある。共産主義が崩壊した時、東ドイツ(RDA)は前体制と関係が強い判事の70%を解任した。第二次世界大戦後、フランスではドゴールがナチに協力したヴィシー政権の判事を解任した。ポーランドではこれをやっていない。判事は100%ポストに存続した。1980年代の犯罪はいまだ裁かれていない。この不正を正すための司法改革なのだ。また改革の二つ目の理由はポーランドの司法制度がEUの他の国のように効率的で独立性や透明性があるわけではないことに起因する。

 

(問)マクロン大統領の「進歩主義」vs「国家主義」のアプローチをどう考えるか。

(答)マクロン大統領と私は欧州の未来について別々の考え方だ。私は「国家の欧州」を提唱し、マクロン大統領は「欧州合衆国」を創ろうとしている。彼のプロジェクトは民主主義が受け入れるものではない。ドイツやオランダのような豊かな国からイタリアのように財政問題かかえる国への資金移転を意味する「ユーロ圏予算」でさえ成立するのが難しいのだ。

 

このインタビューを読んでPinotpinot3は、同じEU加盟国といえども、国の成り立ちが違う西欧と東欧ではものの見方がこれだけ離れているんだって実感しました。通常西欧側のニュースばかり見ているので、中欧諸国の見方は新鮮に聞こえます。マクロンのEU構想は確かに急進すぎて、保守的で比較的経済規模が小さい国ではついていけない国が多いようです。マクロンのフランス国内構造改革に中流・低所得者層がついていかなったように。欧州議会選挙まであと5カ月ちょっと。それまでに挽回できるかな、マクロン。