EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

欧州:ポピュリズムの誘惑

フランス国営テレビ「France 5」で放映されたドキュメンタリー番組「欧州:ポピュリズムの誘惑」(93分)、とても面白かったです。EUと既存の政治システムに反発する欧州の人民(パープル)とポピュリストのリーダーたちを、イタリア、ハンガリー、フランス、ドイツを中心に取材していました。フランスに住んでいる私が一番驚いたこと―それはイタリア国内で今、極右「同盟」党首マッテオ・サルヴィーニ(内相)の人気が本当にすごいってこと・・・「キャピテン」って呼ばれて国を救う救世主みたいに愛されている。ほぼ6割のイタリア人が「イタリアの将来を担う男」と彼に期待を寄せているということ。イタリア人は国が傾くと、フランス人がナポレオンの再来を求めるように、ローマ時代のシーザーを求めるらしいけど、まさに今、サルヴィーニはイタリア人にとってそういう存在。「人民」の声を聴いてくれる男、EUやエリートによる独裁体制(!)や、欧州に押し寄せる移民・難民から「人民」を守ってくれる男・・・イタリアはEUの中核国ですから、そんな国で極右の党首が絶大な人気と権力を握っているなんて、なんだか嫌ですね。

 

番組では、さらに米トランプ政権の元主席戦略官・上級顧問で政治活動家のスティーブ・バノン氏が登場。「米国でトランプ氏を大統領に当選させ、欧州でもトランプ氏のようなリーダーを誕生させるために政治活動「ザ・ムーブメント(The Movement)」を起こし、サルヴィーニに接近した」と紹介されていました。彼はインタビューでイタリアを「世界における既存政治システムの崩壊に向けた震央地」と位置づけ、「2018年春の(イタリア)総選挙で極右と極左、北と南、ナショナリストとポピュリストが国家のためにひとつとなって戦い、60~70%の支持を得た。本当に素晴らしいと思った。イタリアが世界政治の未来だ。(中流階級以下の)人民はもう既存の政治システムの中で、移民流入や経済危機による賃金抑制によって生活を脅かされるのをがまんできない。5月の欧州議会選挙ではサルヴィーニとオルバン(ハンガリー首相)によるポピュリスト同盟と人民が望まない欧州モデルを提唱するマクロンとの一騎打ちになる」と主張。どちらが勝つと断言しなかったものの、彼が欧州極右政党の躍進を狙って「ザ・ムーブメント」を通じ様々な支援活動を行っていることはよく伝えられるところです。

 

バノン氏がサルヴィーニと「ポピュリスト同盟を組む」としたハンガリーのオルバン首相ですが、彼はこれまでにEUを独裁体制と批判、EUの移民政策に反旗を翻し、5月の欧州議会選挙に向けユンケル欧州委員長を批判するキャンペーンを展開する一方、国内ではグローバル化に取り残され、没落したと感じている国民の不満や不安を、EUや西欧諸国、ユダヤ人(とりわけハンガリー出身のユダヤ系米国人富豪家ソロス氏)、エリート層、移民に対する怒りに変えることで人気を得たと説明されています。

 

そのオルバン首相が率いる政権与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は3月20日、欧州議会で同党が所属する欧州議会最大会派の右派中道「欧州人民党(EPP)」から無期限の加盟資格停止処分を受けましたね。彼の「非自由主義」政策が、EPPが掲げる自由民主主義、法治国家という価値観に反するというのが理由。これまで「フィデス」がサルヴィーニの「同盟」やポーランドのEU懐疑派保守「法と正義」と手を組むことを恐れてオルバン首相の言動にある程度目をつぶってきたEPPもここにきて許容範囲を超えたと判断したのでしょう。

 

ただ、これでバノン氏が望むように欧州極右同盟に勢いがつくか、というと、それほど話は簡単ではないようです。欧州議会選挙において反マクロンで共闘宣言したサルヴィーニとオルバンですが、France 5のドキュメンタリーでは、移民問題についてサルヴィーニはEU加盟国における難民受け入れ分担の推進(イタリア難民キャンプからの各国への移送の加速)を訴えているのに対し、オルバンはハンガリーへの移民・難民の受け入れを一切拒否しており、優先政策課題である移民問題で両者の意見調整は難しいだろうと指摘されています。番組では、フランスの極右「国民連合」出身で、欧州議会で極右政党会派「国家と自由の欧州(ENL)」の共同代表を務める二コラ・ベイがポーランドやハンガリーを訪問、極右結束に向け奔走している様子が報告されていましたが、各国の極右=ナショナリストを欧州でひとつにまとめるのは難しいようです。

 

France5のドキュメントは3月26日まで以下のサイトで閲覧できます。フランス語がわかる方は是非。

https://www.france.tv/france-5/c-dans-l-air/927977-europe-la-tentation-populiste.html