EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

マクロン大統領が苦戦、欧州議会選挙の行方

EU改革に向けたパートナーであるドイツがメルケル政権の弱体化から自国優先主義に傾き、イタリアが極右・ポピュリズム政権の誕生でユーロ加盟国に課せられた財政規律路線から外れ、中欧の先鋭化した保守政権が非自由主義をベースに「新たなEUの構築」を叫ぶなか、EUにおけるマクロン大統領の孤立が色濃くなっています。自身が打ち出したユーロ圏改革についても一部の改革(とりわけユーロ共通予算)に北欧8カ国(オランダ、アイルランド、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、デンマーク*、フィンランド*)が反対を表明(*はユーロ非加盟国)しており、四面楚歌に陥った感があるのは否めません。

 2017年9月26日にソルボンヌ大学で公表した『欧州再構築構想(ソルボンヌ・イニシアティブ)』の実績をアピールすることで、欧州議会選挙で攻勢をかけたかったマクロン大統領としては、この1年の欧州政治情勢の変化は想定外だったのではないでしょうか。

2018年9月12日に大統領府が発表した「ソルボンヌ・イニシアティブから1年」と題したブリーフィング資料をみると、同構想の中で「発議案としてまとまったもの、すでに加盟国の合意を得て実施に向けて動き出しているもの、発議案を検討中のものなどを含め、あわせて49の改正措置が実行された」とあります。主なものをあげると、①EU加盟国内における派遣労働者に関わる欧州指令改正について、「派遣期間も上限を12カ月とする」、「給与や社会保障に関わるコストを現地レベルに合わせる」、「不正行為の取締りを強化する」ことを求めたフランスの主張が盛り込まれた。②欧州委員会は欧州国境警備隊を2020年までに1万人増員することを提案した。③独仏両国は2018年6月19日、2021年までにユーロ圏共通予算を設立することで合意した(メセベルグ合意)。④フランスの発意を受け欧州委員会は2018年3月21日、米巨大IT企業GAFAに対しデータ売却益の3%を課税する案を発表した。⑤独仏両国は法人税の課税対象収入を協調することで合意した、など。

 『ソルボンヌ・イニシアティブ』が順調に動いていることを印象付けたいんでしょうけど、メルベルグ合意はドイツ側が実は陰で実現を遅らせる工作をしていると伝えられているし、GAFAへの課税についても米国の報復関税を恐れるドイツは秘かに廃案を望んでいる・・・『ソルボンヌ・イニシアティブ』はマクロン大統領が思い描いていたようには前進していないというのが大勢の意見です。

欧州議会選挙(加盟国ごとの比例代表制)で「汎欧州候補者リスト」を導入するという彼の提案も2018年2月に欧州議会で否決されたし、欧州・EUに関わる市民討論会も「フランスではこれまでに400を超えるイベントが実施され、3万人の市民が参加した」(首相府)そうですが、ル・モンド(2018年9月29日付け)によれば多くのイベントが開催されているものの「欧州民主主義の強い基盤を構築するほどの盛り上がりを見せていない」とあまり評価されていません。

こうしてソルボンヌ・イニシアティブが「構想」に終わってしまう可能性が強まるなか、国内ではマクロン大統領の支持率が急激に低下しています。10月5日付けレゼコー紙によると、マクロン大統領の10月の支持率は大統領就任直後の45%から15ポイント低い30%。2018年7月に大統領の側近が起こした暴力事件を契機に急落した支持率は、9~10月に首相に次ぐナンバー2、ナンバー3級の大臣が次々に辞任すると、さらに低下。マクロン大統領の不人気は長期化しそうな気配になってきました。

9月14日にル・フィガロ紙が発表した世論調査では、欧州議会選挙でマクロン大統領の与党政党「共和国前進」は21.5%を得票するものの、マリーヌ・ルペン党首が率いる国民連合(旧「国民戦線」)の得票率も21%と肩を並べています。欧州議会選挙では「共和国前進」と極右政党が第1政党を争うことが予想されます。また同世論調査で「欧州議会選挙で重要と思う課題は何か」という問い(複数回答可)で最も回答が多かったのが「家計購買力(35%)」。欧州レベルの政策課題である「移民(32%)」、「セキュリティー・テロリズム対策(27%)」を上回っています。国内の経済問題が欧州議会選挙の最大の争点になる!しかもマクロン大統領の経済運営で、今、最も批判にさらされている問題!国民が今のところ欧州政策より国内政策を優先させていることがわかります。これでは欧州議会選挙の結果はマクロン大統領の支持率低迷を反映してしまいそう。彼の経済・財政運営に反発を感じている「非エリート層」の票は、2017年の大統領選の時のようにアンチ・マクロンで結束を狙う極右政党に流れることになりそうです。

その極右政党のマリーヌ・ルペン党首は「反EU・脱ユーロ」路線から一転、「新しいEUを創ろう」と呼びかけるハンガリーのオルバン首相やイタリアのサルヴィーニ内相と同じ「EU改革」路線に転換しました。具体的な改革内容は相変わらずはっきり打ち出していませんが、大統領選の時に比べ随分マイルド路線になっているように思います。欧州議会選挙で「極右・ポピュリズム打倒」を掲げたマクロン大統領が敗北し、極右・ポピュリズムの政党グループが多数派をとる?そんな欧州は見たくないなぁ・・・