EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

ハンガリーやポーランド、中欧諸国が反EU、反移民、国家主義に傾くのはなぜ?

欧州で勢力を強める極右・ポピュリズムのリーダー格として注目を集めるハンガリーのビクトル・オルバン首相-9月7日付けのルモンド紙は2019年5月の欧州議会選挙に向けた議論の行方を分析する記事の中で、「主権を持った国家の集合体としてのEU、移民分担受け入れ拒否、キリスト教思想に基づいた文化的に統合した欧州」などを掲げるオルバン首相を、「EU/ユーロ圏の統合深化、欧州主権による移民問題などの解決、多文化主義」を提唱する仏マクロン大統領の対抗軸として位置付けています。

そしてオルバン首相と同盟を組む強力な政治家としてイタリア極右のマッテオ・サルヴィーニ内相、ポーランドの保守政党「法と正義(PiS)」のヤロスワフ・カチンスキ党首を挙げています。同記事によればカチンスキ党首は「9月3日、『EUに対する盲目的な服従を意味する親欧州主義』を弾劾するスピーチを行った。『西欧の過ち』『社会病巣』など弾劾しつつ、『EUはポーランド人の生活水準を引き上げるだけの手段に過ぎない』とするいつものレトリックを持ち出した」とのこと。

ポーランドはハンガリーと同様、非自由主義的な国内政策を進めてEUから条約違反と訴えられているし、キリスト教思想に基づいた欧州再構築とか、なんだろ、彼らが理想とする国の形が同じなのかな、現在の西欧を軸としたEUに対する反発が強いですね。ポーランド、ハンガリーの2か国に、チェコ、スロバキアを入れた中欧4か国(ヴィシェグラード・グループ)も「反移民」で結束していて、EUが決めた移民分担受け入れ義務を拒否。移民分担受け入れを迫るEUを「独裁主義」と批判しています。

 EU内の東西分裂の核となっている中欧4か国の頑な反EU、反移民、非自由主義的思想って何なんでしょう。いずれも1989年のベルリンの壁崩壊で旧共産圏から独立し、2004年にEUに加盟した国。何か4か国に共通する特殊な要因があるんだろうなと思っていたら、仏ラジオ局「フランス・クルチュール」で「欧州分裂」について専門家が議論する番組があり、その中で中欧が国家主義を掲げ、非自由主義的民主主義に傾き、西欧を批判する理由について、以下のようなコメントがありました。

https://www.franceculture.fr/emissions/repliques/la-fracture-de-leurope-0

出席者:アラン・フィンケルクロート(哲学者)、シャンタル・デルソル(哲学者)、ジャック・ルプニック(政治学者)

  • 中欧は1989年のベルリンの壁崩壊後、共産圏から欧州に戻ってきたが、すでにポストモダニズムに入っていた西欧とは違い、社会モデルは昔のままで、西欧より保守的でより宗教色の強いもので、西欧社会のことを全く理解していないところから始まったことを忘れてはならない。
  • 1989年のベルリンの壁崩壊後20年間、中欧はEU管轄の下に民主化、自由化、市場経済化を進めてきたが、過去10年間は国家主義が台頭、反EUに180度転換した。彼らにとりEUは不安材料となった。中欧の市民の7割はEUを信頼すると答えており、EU脱退を望んでいる訳ではないが、政治家はEU批判を展開、国家主義に傾いている。「別のEUへの変革」を要求している。
  • ハンガリーは過去に「欧州が欧州でいるために、ハンガリーがハンガリーでいるために」ナチズム、ソビエト連邦という全体主義に抵抗したように、(移民受け入れを強制する)EUに対するレジスタンスが必要と考えている。
  • 中欧は自由主義、多文化主義をベースにした西欧社会は見習うべきではないとみている。中欧は文化、宗教、言語など文化的アイデンティティを軸に国家を形成したモデルで、フランスのように多文化の人民を統合して国家を形成したモデルとは違う。
  • 西欧の社会モデルを退廃的と軽蔑する。政治的自由主義、同性婚や中絶を認める自由主義的社会モデルを否定し、中欧は伝統的で保守的な欧州モデルの最後の砦(擁護者)としての役割を果たすべきとの考え方だ。
  • 連帯という価値観からEUは加盟国に移民分担の受け入れを義務付けたが、中欧は各国の人民がその国の価値観に応じて受け入れるか、受け入れないか決めるべきだとの立場。
  • 中欧はポーランドを中心に出稼ぎなどで人口流出が続いた。働き手を中心に人口が減る中で、大量の移民流入は文化的なアイデンティティとして国家の存続を危うくするものと映る。これらの国で国家主義が台頭する背景にはこれがある。

 知識人の3人の間の会話で内容が高度でフランス語が難しいので、100%わかったわけじゃないんですけど、わたしは上記のように理解しました。というか、わかったようで、わかってないか・・・(汗)。

でも一番心に残ったのは、移民受け入れ問題で鮮明になった西欧と中欧が持つ欧州モデルの違いでしょうか。独メルケルは「欧州は共通の価値観を基盤」にしており、「移民受け入れは各国の選択ではなく、(連帯という価値観から)EU加盟国に課せられた義務だ」とするのに対し、オルバン首相をはじめ中欧の政治リーダーたちは欧州とは「欧州文明(歴史、文化、宗教、言語など)を共有する国家の集合体」であり、国境を閉鎖することで欧州文明やアイデンティティを守るべきだとする、この両者の違い。

 すごく難しかったけど、すごく面白かったわ・・・。