EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

ドイツ東部の「反移民」「外国人排斥」暴動が怖い訳

先週、旧共産圏だった中欧4か国が「反EU」、「反移民」、「非自由主義的民主主義」に傾いている理由についてフランスの有識者の見解を書きました。同じことが今、外国人排斥運動が高まっている旧共産圏のドイツ東部(旧東ドイツ)にもいえるのではないかなと思っています。独東部ザクセン州ケムニッツで8月26日に起きた難民申請者2人(イラク、シリア出身)によるドイツ人男性の刺殺事件と、それを発端にした「反移民」を訴える大規模なデモ。極右集団ネオナチにフーリガンが加わり、一部は「外国人狩り」の暴動に発展してしました。

フランスも欧州の盟主であるドイツがポピュリズムの波に飲み込まれることについて「ドイツは普通の国ではない」だけに、大きな危機感を抱いているようです。とくに今回のドイツのデモ・暴動でショックだったのは「これまでになかったような極右の強い結束」が見られたこと。9月7日付けのルモンド紙は「ケムニッツ事件以前、ドイツでは極右のデモは二つにわかれていた。数十年もの間、定期的にネオナチはナチズム賞賛の小規模なデモを行ってきた。暴力沙汰はネオナチと(反ナチ)左派の間に限られていた。一方で(メルケル首相が100万人の難民受け入れを発表した)2015年以降、反イスラムを掲げた数万人の一般市民による暴力を伴わないデモ行進が見られるようになった。今回のケムニッツのデモ行進はこれまで別々に行動していたこの二つのグループを動員し、ネオナチ、フーリガン、PEGIDA(西欧のイスラム化に反する欧州愛国運動)に参加している『怒れる民衆』の強い結束を見せつけた」

「(ドイツ連邦議会で第3政党である)極右『ドイツのための選択肢(AfD)』や地方のエリート層は、暴動を腐敗した国家に対するレジスタンスのように正当化することで焚きつけた。さらに極右政党のリーダーたちは1968年、1989年に起こった民主主義的なデモと今回の暴動を同一視することで暴力を正当化し、一般市民を先鋭化することに貢献した」「ケムニッツで見られた極右集団、親右派の市民、右派エリートの結束は、穏健だったPEGIDA(西欧イスラム化に反する欧州愛国運動)が先鋭化する土壌となり、自己防衛を理由に暴力が正当化される新しいサイクルに入ったことを印象付けた。極右政党『ドイツのための選択肢(AfD)』、PEGIDAのような市民運動とネオナチの3つの勢力の結束は破滅への道だ」と分析しています。

今回の暴動を1930年代にドイツがナチズムに傾倒していった現象と重ね合わせてみているんですね。国際政治学者ドミニク・モイジも9月10日付けレゼコー紙の「ドイツは普通の国ではないのだ」と題する論説の中で以下のように論じています。「ケムニッツでデモ行進を行った極右勢力は1989年ベルリン壁の崩壊の際の『我々はひとつ』というスローガンを持ち出した。あの時、旧東ドイツで国家主義と自由主義信奉者が結束したのに対し、今日のドイツ東部では国家主義がヘイトスピーチ・外国人排斥主義とひとつになった」「楽観主義者はドイツが『普通の国になった』という。わたしのようにドイツ史を悲劇的にみる者は、ドイツは普通の国になることはできないと考える。とくに普通になることが、人種差別や外国人排斥など暴力を意味する今日では。」

「ドイツで1933~1945年に生み出された歴史的な漂流に対するワクチンは政治モラルの低下や時間による記憶の風化で、もはや効果はない。ナチスと共産主義という独裁者に相次いで支配され、民主主義の経験を持たないドイツ東部ではよりそうだ。新しいワクチンはどこから生まれるのか?(反移民、非自由主義を唱える)ハンガリーのオルバン首相は『過去、欧州は我々の未来であった。今日、我々が欧州の未来なのだ』という。オルバン首相が提案する未来は、半世紀前に我々が経験した過去とそっくり似ているではないか。欧州を廃墟に化した過去と。」中欧やドイツ東部など旧共産圏でみられる国家主義、外国人排斥、極右・ポピュリズム台頭の現象は、第2次世界大戦前の欧州の状況に似てるっていう見方なんですね。

ポピュリズムは旧共産圏のドイツ東部だけでなく、大戦後、民主主義の再建に取り組んできた旧西ドイツにも広がりつつあるようです。ドイツ南東部バイエルン州では、2018年10月の州議会選挙を前に移民政策を巡り、メルケル首相の「キリスト教民主・社会同盟(CDU)」と連立を組む保守「キリスト教社会同盟(CSU)」が右傾化しています。メルケル首相がケムニッツの暴動を強く批判したのに対し、連立政権で内相を務めるゼーホーファーCSU党首は、逆にメルケル首相が100万人の難民受け入れを打ち出した2015年以降、「移民問題がドイツの諸問題の母体となった」と逆にメルケル首相を非難する発言をしました。今回の州議会選挙では極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進することが予測されているからです。

ナチズムの台頭を許した「過去」を猛省してきたはずのドイツが、あの「過去」を繰り返うとしている・・・フランスをはじめ欧州の他の国にとって、これほど怖いことがあるでしょうか?