EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

欧州議会選挙に向けたマクロン大統領の「欧州ルネッサンス構想」は幻想に終わる?

マクロン大統領は3月4日、欧州議会選挙のキャンペーン突入を前に欧州市民に直接語りかける形で「欧州ルネッサンス構想」を公表しました。大統領は、英国のEU離脱に象徴される「国粋主義者(ポピュリストたち)の嘘や無責任」や「欧州に蔓延る現状維持や諦観」という民主主義の罠から欧州を救済するため「自由」、「保護」、「進歩」の3つのテーマで欧州を再生させるための政策提案を行いました。

 

具体的には、「自由」を擁護するため、「欧州民主主義保護庁」の創設、域外外国勢力からの欧州議会政党への資金供与禁止、インターネット上からのヘイト・スピーチなどの追放を提案し、「保護」についてはシェンゲン協定の見直しや移民・国境管理の強化、欧州防衛・安全保障条約の締結のほか、戦略的産業への保護措置を、また「進歩」については「欧州統一最低賃金」の設定、エコロジー分野で投資資金を供給する「欧州気候銀行」の創設や欧州レベルでのイノベーション投資などを提案しています。

 

マクロン大統領がぶち上げた「欧州ルネッサンス構想」に対し、欧州各国の反応は鈍く、EU改革におけるマクロン大統領の空回りぶりがまた明らかになってしまった印象があります。最大のパートナーである(とフランスが期待している)ドイツは、キリスト教民主同盟(CDU)のアンネグレート・クランプカレンバウワー幹事長(メルケル首相・前CDU党首の後継者)が3月10日のDie Weltに自身の欧州構想について寄稿し、「欧州の中央集権化、欧州による国家統制、(加盟国が抱える)債務の共有化、最低賃金と社会保障制度の欧州共通化はやるべきではない」「EUのために今、できることをやるべきだ」とマクロン大統領がぶち上げた「欧州ルネッサンス構想」と一線を画す姿勢を表明しました。

 

ドイツとフランスって面白いですね。同床異夢といいますか、「欧州はこのままではダメだ。改革が必要だ」という点では意見が一致しているのに、改革の方法論が全く違う。両国の国のなりたち、歴史に基づいた国民性の違いなどを反映しているんでしょうけど、フランスが「EUが向かうべき長期的な大きなビジョン(理想)を打ち出し、このEUの理想に向かって加盟国がともに改革を進めていく」というイメージなのに対し、ドイツは「今、実現可能な改革をリストアップし、実現化に向けた課題をひとつひとつ確実にクリアしていく」やり方を優先するように見えます。「確実にできることしか提案しない」ドイツの質実剛健さはフランス人の目には極めて「近視眼的」で大局を見る目を持たない、ガチガチの「小売商店主の経営」に写ってしまう。逆にドイツからすると、実現できるかわからない夢(幻想?)を打ち出す一方で、自国の構造改革はズルズル先送りばかりしているフランスのやり方を信用できないのではないでしょうか。

 

今のところ、マクロン大統領の「欧州ルネッサンス構想」が今後のEU改革のベースになるのは難しそうですね。欧州議会が2月に発表した世論調査によれば、マクロン大統領の与党政党「共和国前進」が欧州議会選挙で共闘する中道「欧州自由民社同盟グループ(ALDE)」は75議席(うち「共和国前進)20議席)を獲得し、現行の68議席から議席を増やすと予想されているものの、CDUが会派内で多数派を占める中道右派「欧州人民党(EPP)」は183議席を獲得。単独過半数は取れないものの、欧州議会では最大多数派になると予想されており、中道左派「社会民主進歩同盟グループ(S&D)」(135議席)にも大差をつけられ、ALDEが環境派と組んだとしても欧州議会では少数派にとどまる可能性が強いようです。