EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

欧州議会選予測、南欧、中欧でポピュリスト政党がリード

5月末の欧州議会選挙に向け、加盟国各国で世論調査の結果が発表され始めています。やはりフランス、イタリア、ハンガリー、ポーランドなどではポピュリスト政党の支持率が高いですね。フランスの極右政党「国民連合」の支持率は20%で、マクロン大統領の政権与党「共和国前進」の23%に迫る勢いです。反政権運動「黄色いベスト」が出馬しなければ国民連合の支持率は21%に上昇することが予測されています(4月8日付けル・フィガロ紙発表)。イタリアでは「北部同盟」が30%、「5つ星運動」が28%と他の政党を大きくリード。ハンガリーはオルバン首相の政権与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」が52%(!)、ポーランドは政権与党「法と正義(PiS)」が45%となり、中道右派「市民プラットフォーム(PO)」の34%を上回っています。***各国の最新の世論調査の結果はEurope Electsという団体のサイトで入手できす。https://europeelects.eu/european-union/ 

 

欧州におけるポピュリズム台頭の理由のひとつとしてよく指摘されるのが、欧州各国における「所得格差の広がり」。働いても生活が良くならない低所得者層の不安や怒りを、ポピュリスト政党のリーダーたちがEUや既存政党が悪いからだと巧みに責任転嫁した結果だというのです。欧州における所得格差について、「21世紀の資本」を書いて世界的に有名になったフランスの経済学者トマ・ピケティが所属する「世界不平等研究所(World Inequality Lab)」は、欧州は「医療や教育コストが低い」ほか、「社会扶助や税による所得再分配システムが機能している」ことで「1980年以降、世界の中でも最も所得格差の広がりを抑制してきた地域である。」しかし「欧州の社会モデルは欧州諸国間の税率引き下げ競争(累進性の緩和)の結果、侵食されている」といいます。法人税の最高税率(EU平均)は1981年49%から現在は25%まで低下する一方、消費税率は17%から21%に上昇し、低所得者層への税負担が重くなったからです。

 

欧州の中でも西欧、北欧に比べ、所得の再分配システムが非効率な南欧、東欧における所得格差の広がりが顕著なのだそうです。同報告書によれば、西欧では所得の再分配システムによりに所得格差のほぼ3割が是正されるが、南欧ではこの是正効果が23%、東欧では15%にとどまると試算されています。ポピュリスト勢力の強まりの背景にはイスラム教徒の移民流入によるアイデンティテイー問題のほかにも、再分配機能の低下といった構造的な要因もありそうです。

ハンガリー国民は「西欧」を恐れている

非自由主義を信奉する欧州諸国を縦断し「ハンガリー・レポート」を上梓したベルナード・ゲタ(国際政治ジャーナリスト)に聞く(抜粋) ル・モンド紙 2019年3月29日

 

(問)ハンガリーを取材して驚いたことは何か

誰も(オルバン首相の)現体制(レジーム)を恐れていないということがわかった。私はモスクワで、トルコで今のエジプトで(国民が体制に見せる)恐怖を見てきた。ハンガリーでは(これはポーランド、オーストリア、イタリアでもそうなのだが)人々は怖がっていない。警察(監視)体制が通常示す兆候は全く見られない。街に民兵がたむろしているわけでもない。一方で、息苦しさがある。さらにハンガリーでは他の国よりも、この体制の信奉者たちによると西欧の絶対的な退廃を示す二つのサインである「イスラム教徒の移民」と「同性婚」に対するヒステリックの恐怖症(嫌悪感)が膨らんでいる。

 

(問)ハンガリーの国民はオルバンではなく、西欧を恐れている・・・

彼らが一部を構成していると考えてはいない「西欧」を大変恐れている。彼らが呼ぶ「西欧」とは自由民主主義のことだ。彼らの目には西欧は終焉したと映っている。欧州およびキリスト教のレジスタンスの砦は彼らしかいないと考えている。ここでいう「キリスト教徒」とは「イスラム教徒ではない」という意味でしかない。ハンガリーは完全に、フランスよりもさらに非キリスト教徒化している。彼らにとっては宗教の(違いが)問題ではなく、文明の(違いが)問題なのだ。それはオルバン主義を超越した問題である。キリスト教徒は国民の5割を下回るが、イスラム教徒の移民反対者は多数派だ。オルバン首相を汚職などほかの点について批判する人々を含めオルバン首相に対する寛大さはこれに起因する。彼らも移民への対応(EUが課した移民受け入れ分担の拒否など)についてはオルバン首相を評価しているのだ。

 

(問)西欧への反発は政権に近い知識層でシステム化されているというが・・・

それは今回の取材で私が脅威に感じたことのひとつだ。自由、平等、人権といった価値―フランス、アメリカ革命、欧州の啓蒙思想を否定することを正当化するために多くの知識人が深く、時に素晴らしい考察を行っている。これが(非自由主義を)「選択された権威主義」として正当化する背景にある。彼らは選挙により定期的に有効と認められるアンシャン・レジームへの回帰を求めている。

欧州:ポピュリズムの誘惑

フランス国営テレビ「France 5」で放映されたドキュメンタリー番組「欧州:ポピュリズムの誘惑」(93分)、とても面白かったです。EUと既存の政治システムに反発する欧州の人民(パープル)とポピュリストのリーダーたちを、イタリア、ハンガリー、フランス、ドイツを中心に取材していました。フランスに住んでいる私が一番驚いたこと―それはイタリア国内で今、極右「同盟」党首マッテオ・サルヴィーニ(内相)の人気が本当にすごいってこと・・・「キャピテン」って呼ばれて国を救う救世主みたいに愛されている。ほぼ6割のイタリア人が「イタリアの将来を担う男」と彼に期待を寄せているということ。イタリア人は国が傾くと、フランス人がナポレオンの再来を求めるように、ローマ時代のシーザーを求めるらしいけど、まさに今、サルヴィーニはイタリア人にとってそういう存在。「人民」の声を聴いてくれる男、EUやエリートによる独裁体制(!)や、欧州に押し寄せる移民・難民から「人民」を守ってくれる男・・・イタリアはEUの中核国ですから、そんな国で極右の党首が絶大な人気と権力を握っているなんて、なんだか嫌ですね。

 

番組では、さらに米トランプ政権の元主席戦略官・上級顧問で政治活動家のスティーブ・バノン氏が登場。「米国でトランプ氏を大統領に当選させ、欧州でもトランプ氏のようなリーダーを誕生させるために政治活動「ザ・ムーブメント(The Movement)」を起こし、サルヴィーニに接近した」と紹介されていました。彼はインタビューでイタリアを「世界における既存政治システムの崩壊に向けた震央地」と位置づけ、「2018年春の(イタリア)総選挙で極右と極左、北と南、ナショナリストとポピュリストが国家のためにひとつとなって戦い、60~70%の支持を得た。本当に素晴らしいと思った。イタリアが世界政治の未来だ。(中流階級以下の)人民はもう既存の政治システムの中で、移民流入や経済危機による賃金抑制によって生活を脅かされるのをがまんできない。5月の欧州議会選挙ではサルヴィーニとオルバン(ハンガリー首相)によるポピュリスト同盟と人民が望まない欧州モデルを提唱するマクロンとの一騎打ちになる」と主張。どちらが勝つと断言しなかったものの、彼が欧州極右政党の躍進を狙って「ザ・ムーブメント」を通じ様々な支援活動を行っていることはよく伝えられるところです。

 

バノン氏がサルヴィーニと「ポピュリスト同盟を組む」としたハンガリーのオルバン首相ですが、彼はこれまでにEUを独裁体制と批判、EUの移民政策に反旗を翻し、5月の欧州議会選挙に向けユンケル欧州委員長を批判するキャンペーンを展開する一方、国内ではグローバル化に取り残され、没落したと感じている国民の不満や不安を、EUや西欧諸国、ユダヤ人(とりわけハンガリー出身のユダヤ系米国人富豪家ソロス氏)、エリート層、移民に対する怒りに変えることで人気を得たと説明されています。

 

そのオルバン首相が率いる政権与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は3月20日、欧州議会で同党が所属する欧州議会最大会派の右派中道「欧州人民党(EPP)」から無期限の加盟資格停止処分を受けましたね。彼の「非自由主義」政策が、EPPが掲げる自由民主主義、法治国家という価値観に反するというのが理由。これまで「フィデス」がサルヴィーニの「同盟」やポーランドのEU懐疑派保守「法と正義」と手を組むことを恐れてオルバン首相の言動にある程度目をつぶってきたEPPもここにきて許容範囲を超えたと判断したのでしょう。

 

ただ、これでバノン氏が望むように欧州極右同盟に勢いがつくか、というと、それほど話は簡単ではないようです。欧州議会選挙において反マクロンで共闘宣言したサルヴィーニとオルバンですが、France 5のドキュメンタリーでは、移民問題についてサルヴィーニはEU加盟国における難民受け入れ分担の推進(イタリア難民キャンプからの各国への移送の加速)を訴えているのに対し、オルバンはハンガリーへの移民・難民の受け入れを一切拒否しており、優先政策課題である移民問題で両者の意見調整は難しいだろうと指摘されています。番組では、フランスの極右「国民連合」出身で、欧州議会で極右政党会派「国家と自由の欧州(ENL)」の共同代表を務める二コラ・ベイがポーランドやハンガリーを訪問、極右結束に向け奔走している様子が報告されていましたが、各国の極右=ナショナリストを欧州でひとつにまとめるのは難しいようです。

 

France5のドキュメントは3月26日まで以下のサイトで閲覧できます。フランス語がわかる方は是非。

https://www.france.tv/france-5/c-dans-l-air/927977-europe-la-tentation-populiste.html

欧州議会選挙に向けたマクロン大統領の「欧州ルネッサンス構想」は幻想に終わる?

マクロン大統領は3月4日、欧州議会選挙のキャンペーン突入を前に欧州市民に直接語りかける形で「欧州ルネッサンス構想」を公表しました。大統領は、英国のEU離脱に象徴される「国粋主義者(ポピュリストたち)の嘘や無責任」や「欧州に蔓延る現状維持や諦観」という民主主義の罠から欧州を救済するため「自由」、「保護」、「進歩」の3つのテーマで欧州を再生させるための政策提案を行いました。

 

具体的には、「自由」を擁護するため、「欧州民主主義保護庁」の創設、域外外国勢力からの欧州議会政党への資金供与禁止、インターネット上からのヘイト・スピーチなどの追放を提案し、「保護」についてはシェンゲン協定の見直しや移民・国境管理の強化、欧州防衛・安全保障条約の締結のほか、戦略的産業への保護措置を、また「進歩」については「欧州統一最低賃金」の設定、エコロジー分野で投資資金を供給する「欧州気候銀行」の創設や欧州レベルでのイノベーション投資などを提案しています。

 

マクロン大統領がぶち上げた「欧州ルネッサンス構想」に対し、欧州各国の反応は鈍く、EU改革におけるマクロン大統領の空回りぶりがまた明らかになってしまった印象があります。最大のパートナーである(とフランスが期待している)ドイツは、キリスト教民主同盟(CDU)のアンネグレート・クランプカレンバウワー幹事長(メルケル首相・前CDU党首の後継者)が3月10日のDie Weltに自身の欧州構想について寄稿し、「欧州の中央集権化、欧州による国家統制、(加盟国が抱える)債務の共有化、最低賃金と社会保障制度の欧州共通化はやるべきではない」「EUのために今、できることをやるべきだ」とマクロン大統領がぶち上げた「欧州ルネッサンス構想」と一線を画す姿勢を表明しました。

 

ドイツとフランスって面白いですね。同床異夢といいますか、「欧州はこのままではダメだ。改革が必要だ」という点では意見が一致しているのに、改革の方法論が全く違う。両国の国のなりたち、歴史に基づいた国民性の違いなどを反映しているんでしょうけど、フランスが「EUが向かうべき長期的な大きなビジョン(理想)を打ち出し、このEUの理想に向かって加盟国がともに改革を進めていく」というイメージなのに対し、ドイツは「今、実現可能な改革をリストアップし、実現化に向けた課題をひとつひとつ確実にクリアしていく」やり方を優先するように見えます。「確実にできることしか提案しない」ドイツの質実剛健さはフランス人の目には極めて「近視眼的」で大局を見る目を持たない、ガチガチの「小売商店主の経営」に写ってしまう。逆にドイツからすると、実現できるかわからない夢(幻想?)を打ち出す一方で、自国の構造改革はズルズル先送りばかりしているフランスのやり方を信用できないのではないでしょうか。

 

今のところ、マクロン大統領の「欧州ルネッサンス構想」が今後のEU改革のベースになるのは難しそうですね。欧州議会が2月に発表した世論調査によれば、マクロン大統領の与党政党「共和国前進」が欧州議会選挙で共闘する中道「欧州自由民社同盟グループ(ALDE)」は75議席(うち「共和国前進)20議席)を獲得し、現行の68議席から議席を増やすと予想されているものの、CDUが会派内で多数派を占める中道右派「欧州人民党(EPP)」は183議席を獲得。単独過半数は取れないものの、欧州議会では最大多数派になると予想されており、中道左派「社会民主進歩同盟グループ(S&D)」(135議席)にも大差をつけられ、ALDEが環境派と組んだとしても欧州議会では少数派にとどまる可能性が強いようです。

ドイツが産業政策を転換、欧州レベルで保護措置を支持

ドイツが産業政策の転換に乗り出しましたね。2019年2月5日、独アルトマイヤー経済大臣は2030年に向けたドイツの国家産業戦略の中で、国がバイオ科学、人口知能、燃料電池など新しい産業に的を絞って集中的に介入する、EU域外企業による敵対的買収から政府ファンドを通じてドイツ企業を守る、(統合により)ドイツおよび欧州のチャンピオン企業をつくっていく、などの方針を示しました。国内では国家介入の強化に賛否両論あるようで、まだ政策が具体的に決まったわけではないですが、これまで「国は経済システムが秩序を持って機能するためのゲームのルールを策定し、監視する役割を担うが、ゲーム自体には介入しない」というポジションだった(はずの)ドイツが、国家介入を支持する方向に舵を切ったというのは、個人的にはちょっと驚きのニュースでした。

 

ルノー、日産に対するフランス政府のポジションがいい例だと思うのですが、国の経済主体への関与が強いフランスの経済システム「ディリジズム」に対し、ドイツの経済システムのベースとなる「オルド自由主義」では、国の役割を市場が自由に機能するための秩序、規制づくりに限定し、国は経済プロセスに介入すべきではないと考えられています。このためか、フランスでは大企業でも中小・零細企業でも経営困難に陥ると、国に支援を求めますが、ドイツの企業、産業界はこういった国の介入をとても嫌いますよね。自由競争に反すると。同じ欧州でもフランスとドイツで国の経済に対する役割が違う。というか、違ってた!

 

それが、ここにきてドイツが、フランス型のディリジズムに転換するわけではないにせよ、フランスの産業政策に同調するようになったというのです。仏ルメール経済・産業大臣と独アルトマイヤー経済大臣が2月19日に共同声明で発表した「21世紀に適応した欧州産業政策に向けた独仏マニフェスト」では、「強い産業力が欧州の経済的主権と自立を保障できる」として、①燃料電池、人口知能(AI)での共同プロジェクトの立ち上げ、②欧州競争政策の見直し、国による企業支援の容認、③欧州市場、企業、技術の防衛(外資規制の導入、政府調達市場参入における相互性の保障)などを柱にした欧州産業政策を提案しました。これってマクロン大統領が2017年のフランス大統領選で欧州政策プログラムの中で選挙公約していたもの。2017年9月に彼が打ち出した「ソルボンヌ・イニシアティブ」でも、欧州レベルでの産業強化・保護について謳われていましたね。

 

メルケル首相はこの共同声明をたたき台に、2019年3月のEU首脳会議で欧州産業政策の策定を議題にあげることを支持しているそうです。中国資本による独企業買収の増大、米国の保護主義への転換(ドイツを名指しで「敵」呼ばわり!)、ブレグジット、ポピュリズムの台頭とEU域内での不協和音の高まり・・・世界が激変するなか、ドイツも戦後の安定成長を支えたこれまでの成功モデルから、新たな経済システムへの転換を迫られているのでしょう。マクロン大統領が提唱した「EU再構築構想」をスルーしただけでなく、「ユーロ圏共通予算の導入」にはあれだけ強硬に反対したにもかかわらず、産業政策ではフランスが提案する国家介入による産業保護に同調する・・・でも欧州とかユーロ圏のためではないのが、ドイツらしいのかな。欧州レベルで産業保護を強化することで一番得するのは、経済に占める製造業の割合がEUの中で最も大きく、モノづくり力が強いドイツですもんね。ドイツは自国優先主義と批判する有識者が多いのもうなずける気がします。

止まらない!黄色いベスト運動

黄色いベスト運動、止まらないですね。2月23日にも「アクト15」の実施が予定されています。動員数は減ったとはいえ、逆に機動隊・警察官との衝突、公共施設など的を絞った建造物への破壊活動、ジャーナリスト・エリート層への暴力、ソーシャル・メディアでのヘイト・スピーチの投稿など、気分が悪くなるような行為が市民権を得たように公然と行われるようになった、そんな気がします。

 内務省が発表したこれまでの動員数をグラフにまとめてみると、以下の通り。黄色いベスト運動の参加者は内務省の統計は信用できないとしているけれど、2月14日の「アクト14」の動員数は4万1,500人で、3カ月前の「アクト1」のほぼ7分の1にまで縮小しています。

 

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ただ、黄色いベスト運動のメディアへの露出は相変わらず。テレビ、ラジオ、新聞報道で黄色いベスト運動のニュースがない日はない!と断言できるぐらいだし、グループのリーダーを自任する人たちが全国レベルのテレビやラジオのニュース番組で、耳をふさぎたくなるような自分勝手な体制批判を繰り広げる・・・クーデターを目論む一部のラディカルなグループのリーダーの発言を、全国レベルのメディアがこぞってスクープのように取り上げるような風潮を一部のジャーナリスト(わたしの好きなはジャン・カトルメール記者とか)は「ジャーナリズムの破綻」と批判しています。

 

黄色いベスト運動に対する世論の風向きもここにきて少し変わってきました。2月13日に公表された世論調査の結果によると、これまで黄色いベスト運動を「継続すべき」とするフランス人が過半数を超えていたのに対し、運動が始まってから今回初めて「運動を止めるべき」と答えたフランス人が56%と「継続派」を上回り、過半数を超えました。運動に伴う暴力や破壊活動、ヘイト・スピーチにはもううんざり!という人が増えたんでしょうね。土曜日のデモは「当初の要求からかけ離れている」と答えた人も64%に達しました。

 

でもここから黄色いベスト運動が一気に収束に向かうという声は聞かれません・・・マクロン大統領は黄色いベスト運動の沈静化に向け2018年末に炭素税引き上げの先送りなど購買力引き上げ政策を打ち出したものの、政権に対する不平・不満がまだまだ根強く、大統領や閣僚のスキャンダルや失言、政策の失敗などでまた運動に一気に勢いがつく可能性を払しょくできないからです。

 

国民の不満をくみ上げ、政策に反映させるため、1月15日から3月15日の日程で実施している「国民との対話集会」の結果を受け、マクロン政権が具体的にどのような政策を打ち出してくるのかが、注目されています。

EUの反逆児ポーランド、西欧と東欧の歴史観・世界観の違いを強調

欧州では、とくにフランスでは、「ジレ・ジョーヌ」抗議デモ、ストラスブルグのテロ事件、フランス国内だけでなく、EU内でのマクロン大統領の信任低下、ブレグジットを巡る英国政治の混乱など世間を騒がせる事件が次々と起こっておりますが、今日はあえて皆様が日ごろ見過ごしておられるであろう「ポーランド」ネタを投稿します。なんて、読む人いないと思うから、こんな長い前置きどうでもいいんだけど(笑)。

 

保守政党「法と正義(PiS)」が政権を握ってから、ハンガリーと並んで「反EU」の旗頭になった感があるポーランド。最近の気になる動きをみてみると、

  • 2018年9月18日、ドゥダ大統領、訪問先のワシントンでポーランド国内における米軍基地「フォート・トランプ」の建設に向け20億ドルを供出することを提案。対ロシア戦略では西欧主要6カ国よりも米国、中東欧との連携を強める姿勢を打ち出した。(11月11日付けル・モンド紙)(←米軍からの自立を目指すマクロン大統領の欧州防衛構想に逆行・・・by pinotpinot3)
  • 2018年9月24日、欧州委員会はポーランド政府が新法で定めた最高裁判事の定年引き下げが「司法の独立」を定めたEU法に違反しているとしてEU司法裁判所に提訴すると発表。7月に施行された新法で判事の退職年齢を70歳から65歳に引き下げ。これにより72人の判事のうち27人が退職を余儀なくされる。
  • 2018年10月21日の地方選で「法と正義」は32.3%を獲得し、中道右派「市民プラットフォーム」を中心にした野党連合に勝利。ただし、ワルシャワ、ウッチ、ルブリンなど主要都市では野党連合が勝利しており、2019年秋の総選挙、2020年春の大統領選を控えPiSにとっては痛手となった。選挙キャンペーンの後半で「外国人排斥」を強く押し出したPiSに対し批判票が野党連合に流れた模様(10月23日付けル・モンド紙)

 

こうした動きを踏まえ、マテウシュ・モラヴィエツキ首相がル・フィガロ紙とのインタビュー(12月12日付け)の中で現政権が見せる「ポーランド・ファースト」を擁護しており、西欧との視点の違いが出ていて面白いので概要を訳してお伝えします。

 

(問)移民問題に対する西欧と東欧の意見の違いをどう説明するか

(答)経済発展の違いがある。ドイツは世界で有数の裕福な国だ。移民を受け入れる経済力を持つ。ポーランドはドイツほど経済力がないのに同じように受け入れなければならないのか?すでにウクライナから150万人を受け入れている。我々は(独メルケルと)異なるアプローチをとる。レバノンに流入したシリア難民向け学校・病院建設のために5,000万ユーロを拠出した。EUに難民を受け入れるより効率的だ。(←チェコのバビシュ首相も同じこと言ってたな・・・by pinotpinot3)

 

(問)ロシアの脅威に対する西欧と東欧の見方の違いをどう分析しているか

(答)ポーランドは第1次世界大戦後に独立したが、長く続かなかった。ドイツに攻撃され、ソ連に侵略され、50年間ソ連軍の支配下に生きた。ポーランドの特殊な歴史は我々の独立に対する強い執着を正当化する。我々は過去の経験からロシアがどれだけ隣国に損害を与えるかと知っている。(我々の態度は)決して攻撃的な態度を改めないロシアとの地理的な近い距離で大きな部分を説明できる。西欧は中欧によりロシアから守られている。独仏はロシアを通商・経済パートナーとしか見てない。だがロシアにとり経済関係は彼らの目的を果たすための手段にすぎない。我々もロシアと正常な経済関係を持ちたいが、そのためにはロシアが帝国主義的な野望を捨て、ウクライナ、ジョージア(グルジア)、チェチェンなど近隣諸国を攻撃することをやめなければならない。(←ロシアと隣接する国にとってロシア軍の介入脅威は常に現実レベルで存在する。旧共産圏はロシアの恐ろしさを今でも肌で感じている・・・by pinotpinot3)

 

(問)理想の欧州とは何か。

(答)唯一現実的な答えは「国家の(集合体としての)欧州」(une Europe des nations)を構築することだ。マクロン大統領が「フランス文化はひとつではない」というのがわからない(←マクロン大統領のフランスは多文化主義ですから、様々な文化が併存している、または混じり合っているという見方・・・by pinotpinot3)。私は、フランス文化は世界の偉大な文化のひとつだと思う。西欧ではキリスト教徒は少なくなっているが、東欧、とくにポーランドではキリスト教文化が心に響く。EUを豊かにすることができるのは我々の文化を救うことによってのみだ。逆はうまくいかない。なぜなら欧州の普遍的な価値(valeurs europeenes universelles)が存在しないからだ。我々は現実主義者だ。言語、利益の違いは欧州を決して合衆国のようにすることはないだろう。この発想は市民のニーズからかけ離れている。各国の利益を尊重しすべての国に発展することを可能にする「国家の欧州」に後戻りする必要がある。

 

(問)メディア、司法の独立を嘲弄すると糾弾された。新しい民主主義を目指すのか

(答)我々は前政権と同じようにメディアの自由を保障している。メディアの80%は外資および野党が握っていることをみても明らかだ。司法については我々のポジションを理解するために歴史をさかのぼる必要がある。共産主義が崩壊した時、東ドイツ(RDA)は前体制と関係が強い判事の70%を解任した。第二次世界大戦後、フランスではドゴールがナチに協力したヴィシー政権の判事を解任した。ポーランドではこれをやっていない。判事は100%ポストに存続した。1980年代の犯罪はいまだ裁かれていない。この不正を正すための司法改革なのだ。また改革の二つ目の理由はポーランドの司法制度がEUの他の国のように効率的で独立性や透明性があるわけではないことに起因する。

 

(問)マクロン大統領の「進歩主義」vs「国家主義」のアプローチをどう考えるか。

(答)マクロン大統領と私は欧州の未来について別々の考え方だ。私は「国家の欧州」を提唱し、マクロン大統領は「欧州合衆国」を創ろうとしている。彼のプロジェクトは民主主義が受け入れるものではない。ドイツやオランダのような豊かな国からイタリアのように財政問題かかえる国への資金移転を意味する「ユーロ圏予算」でさえ成立するのが難しいのだ。

 

このインタビューを読んでPinotpinot3は、同じEU加盟国といえども、国の成り立ちが違う西欧と東欧ではものの見方がこれだけ離れているんだって実感しました。通常西欧側のニュースばかり見ているので、中欧諸国の見方は新鮮に聞こえます。マクロンのEU構想は確かに急進すぎて、保守的で比較的経済規模が小さい国ではついていけない国が多いようです。マクロンのフランス国内構造改革に中流・低所得者層がついていかなったように。欧州議会選挙まであと5カ月ちょっと。それまでに挽回できるかな、マクロン。