EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

すでに欧州議会選挙での勝利を確信、イタリアの極右・ポピュリズム政権

イタリアのポピュリズム政党「5つ星運動」と極右「同盟」の連立政権が誕生して4カ月。難民受け入れ拒否や非自由主義への傾倒、欧州各国の極右政党との結束など、「同盟」党首で同政権の内相を務めるマッテオ・サルヴィーニの言動が目立ちますね。難民や移民の受け入れ拒否に関わるスピーチもそうですが、10月15日に連立内で合意に達した2019年予算法案も反EU色を強く打ち出していて、過激であります。

 

マッテオ・レンティ前政権が策定し、欧州委員会から承認を得ていた中期財政計画では、2019年の財政赤字はGDP比0.8%に設定されていたのに(2021年に黒字化)、今回、極右・ポピュリズム政党が合意に至った予算案では財政赤字(GDP比)を2.4%に大幅引き上げ。しかも、予算編成の前提となる実質GDP成長率を実際には1%に達しないと予測されているにもかかわらず1.5%と高めに設定しています。

 

このため、2019年の財政赤字は2.4%にとどまらず、ユーロ加盟国に課せられる3%を超えるとの見方もあります。現在、GDP比で130%を超える公的債務がさらに拡大する可能性もあり、米国の格付け調査会社ムーディーズは21日、イタリア国債を1段階引き下げ、ジャンク債の1つ手前、投資適格水準として最低の「Baa3」に格下げしました。ドイツ国債との利回り差(スプレッド)も300ポイントを超えています。

 

予算編成の見直しを求めるEUに対しイタリア政府は反発。コンテ首相こそ財政赤字を今後、緩やかに抑制していく姿勢を示したものの(2019年2.4%、2020年2.1%、2021年1.8%)、欧州議会選挙を前に、「5つ星運動」党首のルイジ・ディマイオ経済開発相(労働社会政策相)と「同盟」党首サルヴィーニ内相も1歩どころか「2分の1センチ(5ミリ)たりとも後ろに引かない」との強い姿勢を示しています。

 

だいたいこの財政赤字拡大の原因は、「人民のための財政」として両党が選挙公約した「毎月780ユーロ(およそ10万円)の最低所得保証制度」、「(所得税率や法人税率を同一にする)均等税の導入」、治安強化に向け「公務員1万人の増員」など、おカネがかかる政策を優先的に盛り込んだから。エコノミストでもあるジャバンニ・トリア経済財務大臣が財政赤字を2%未満に抑制するよう主張したのを、公約実行を優先するディマイオとサルヴィーニが押し切ったと伝えられています。

 

2019年5月の欧州議会選挙で極右・ポピュリズム政党が勝利すると確信するお二人。拡張的な予算編成でEUと対立することになっても、欧州議会選挙後、極右・ポピュリズム政党が一大勢力となって財政赤字のGDP比目標比率を3%未満と定めた安定成長協定を含む「EUの経済統治ルールを見直す」ことになるため、問題ないとみているらしいです・・・。ディマイオ党首は「欧州レベルで地震が起こる。ルールが変わる」とし、サルヴィーニ内相は「ブリュッセルの防空壕に立てこもるユーロクラット(EU機構の官僚たち)は5億人の(EU加盟国)有権者により失業に追い込まれるだろう」と過激な発言をしています。

 

今回打ち出した拡張的財政政策も、欧州議会選挙での勝利に向けた選挙対策のひとつと考えているのではないでしょうか。EUから脱退するのではなく、欧州議会選挙で勝利し、緊縮財政を押し付けるEUを内部から改革する。ルール・チェンジャーとして欧州議会を牛耳る。そしてこの戦略はどうもイタリア国民に広く受け入れられているようなのです。2018年9月の世論調査で連立政権の支持率は60%を超えました。親EU派であるマクロン大統領のフランス国内での支持率の2倍!!!ポピュリズム政党の人気は今のところ本物のようです。