EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

フランス抗議デモ「黄色いベスト」の正体、あの人たちは何者?

世論調査会社Elabeが11月27~28日に1,000人を対象に行った聞き取り調査の結果によると、フランス人の75%が「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)運動」を支持する(または共感する)と回答。また20%が「自分もジレ・ジョーヌだ」と答えています。「自分もジレ・ジョーヌ」とした人たちを職業、学歴、居住地域などでみると、「人口が少ない農村地帯に住んでいて、中学または高校を卒業した後、地方の会社勤めまたは工場で働いており、経済的に余裕がない・・・」そんなプロフィールが浮かび上がってきます。ジレ・ジョーヌで「パリ近郊に住み、大卒で管理職に就いており、経済力のある」エリート層はごくごく少数派。ジレ・ジョーヌって英国のブレグジッターや、米トランプ大統領の支持者のプロフィールと重なるところがあると思いませんか?

 

ジレ・ジョーヌのプロフィール:

職業「給与所得者・工場労働者」が27% ⇔ 「管理職」13%

居住地域「農村地帯」27% ⇔ 「パリ近郊」12%

経済状況「経済的に余裕がない」27% ⇔ 「余裕がある」13%

学歴「バカロレアを持たない(高卒以下)」27% ⇔ 「バカロレア以上(大卒)」12%

https://elabe.fr/wp-content/uploads/2018/11/20181128_elabe_bfmtv_les-francais-et-les-gilets-jaunes.pdf

 

しかも、2017年大統領選で極右・国民連合「マリーヌ・ルペン」に投票した人の割合が42%と突出しており、これに極左・不服従のフランス「ジャン=リュック・メランション」が20%と続きます。これに対し、エマニュエル・マクロンに投票した人はわずか5%。もともとマクロンを支持していない人たちの運動だったんだ・・・っていうことがわかります。

 

それなら、ジレ・ジョーヌが見せるマクロン大統領に対する、あの激しい反発、暴力的な嫌悪感は理解できるわ。炭素税引き上げ廃止とか、購買力引き上げとかいろいろ主張しているけど、大半のジレ・ジョーヌにとって、それは単なる「大義名分」なんじゃないか。実は彼らにとってこの抗議活動は2017年大統領選のリベンジなんじゃないのか・・・と感じています。

 

2019年5月の欧州議会選挙への影響も出るのかな・・・と心配していたら、ジュルナル・デュ・ディマンシュ(JDD)誌が12月9日付けで発表した世論調査(957人対象)の結果によると、得票率はマクロン大統領の与党政党「共和国前進」が21%でトップ。極右「国民連合」(17%)、極左「不服従のフランス」(12%)を引き離しています。2018年9月の別の世論調査では、「国民連合」が21%、「共和国前進」が19%、「不服従のフランス」が11%でした。ヤッター!

 

この調査によると、ジレ・ジョーヌが政党として欧州議会選挙に出馬した場合は、極右・極左政党から票を奪う形で12%を獲得。国民連合は14%、不服従のフランスは9%に低下。共和国前進は21%で変わらず。ジレ・ジョーヌが極左・極右から支持を得ていることを裏付けていますね。ただし、JDD誌は、ジレ・ジョーヌは「政党として組織化できない」「同一プログラムで結束できない」ことから、欧州議会選挙に出馬する可能性は今のところほとんどないとの見方。ちょっとホッ。

 

なお、この調査で「環境派」の得票数は13%でした。第三勢力として浮上してきています・・・ウフフ

https://www.francetvinfo.fr/economie/transports/gilets-jaunes/elections-europeennes-si-les-gilets-jaunes-presentaient-une-liste-ils-obtiendraient-12-des-voix-selon-un-sondage-ipsos_3092167.html

 

フランス抗議デモ「黄色いベスト運動」を考える

こんなことになるなんて予想してなかったな・・・燃料価格の高騰、炭素税の引き上げに抗議して始まったジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)運動。細々と収束していくと思ったら、長期化する様子。11月17日から毎週土曜日ごとに行われるデモ活動は、参加者の数こそ、28万人➝17万人(11月24日)➝14万人(12月1日)と減ってきてはいるものの、逆に機動隊との衝突や商店・銀行などへの破壊活動は激化。パリ市内(参加者1万人)ではゲリラ化した「破壊屋たち」がところどころで車や建造物に放火したり、通行人やジャーナリストに突っかかっていったり、テレビで見てただけど、毎日通勤で通る道に黒いマスクをかぶったジレ・ジョーヌが闊歩していて、やっぱり怖かったです。

 

この黄色いベストを身に着けた人たちはきちんと組織立って活動している訳じゃない。グループや地方で分かれていたり、極右、極左の支持者やアナーキストが混じっていたり、グループ間で対立していたり。政府への要求もまちまちで、当初は炭素税引き上げに怒っていたのに、どんどんエスカレートしていて、今では購買力改善に向け「年金受給額の増額」、「最低賃金引上げ」を訴える人、「マクロン大統領の辞任」、「フィリップ内閣総辞職」を求める人など、まとまってない。だから政府が燃料価格引き下げに向けて炭素税引き上げ措置やエネルギー価格の値上げを廃止、エネルギー支出に対する手当の増額、燃費のよい乗用車への買い替え支援拡大など対応策を打ち出しても、ぜんぜん抗議活動をやめようとしないし、首相府にリーダー格のジレ・ジョーヌを招いて対話しようとしても、対話に積極的なジレ・ジョーヌを反対派のジレ・ジョーヌが脅したりして、対話に向けた動きもままならない状況のよう。12月8日もデモ抗議を続けるよう呼びかけています。一部は「大統領府に結集せよ」のメッセージをSNSで流している。また暴力、破壊が始まるのかなぁ・・・嫌だな。

 

暴力や破壊活動が激化しているにもかかわらず、12月5日に発表された世論調査の結果によれば、ジレ・ジョーヌ運動を国民の7割以上は支持しているんですよね。マクロン大統領の支持率も過去最低を更新しました・・・

 

もともとマクロン大統領の経済政策は企業寄りで、社会的弱者に対する政策が弱いといわれていました。彼の経済政策はサプライサイドなんですよね。就任早々、法人税のほか、企業に投資資金が流れやすいように富裕税を大幅に減税したのに、家計向けの減税は後回しになってしまった・・・まず企業に元気になってもらって、雇用や投資を増やして、収益が増えた分を働いている人に分配していく。そのロジックが国民に理解されなかった。信用されなかったっていうのが今回の抗議活動の背景にあるような気がします。

 

もともと大統領選でマクロン氏を支持したのは、エリート層、富裕層、大都市の住民、グローバル化の勝ち組っていう人たち。大統領選の第1回投票でのマクロン氏の得票率は24%で、投票者全体の4人に1人にも満たない支持しか得ていないのですね(極右ルペン22%、右派中道フィヨン氏20%、極左メランション20%)。棄権率が記録的に高かった決戦投票でも得票率が6割を超えたものの、反極右の票が流れて当選したようなもの。マクロン大統領のサプライサイドの経済政策プログラムを支持した人はほんとにエリートの少数派だと思うんです。それなのに、マクロン大統領は「公約通り」政策を推し進めてきました。ここにきて非支持者の反発・不満が一気に噴出したという感じがしています。個人的には最後まで改革を貫いて欲しいのですが、2019年5月の欧州議会選挙があるしな・・・ここは公約の一部撤回は仕方ないんでしょうね。次回の選挙で極右・極左政党が勝利するのを見るよりましかな・・・

ユーロ圏共通予算が欧州をポピュリズムから救う?

ルノー・日産カルロス・ゴーン氏の逮捕劇ですっかり陰に隠れてしまったけれど(笑)、独オラフ・ショルツ財務大臣と仏ブルノ・ルメール経済財務大臣は11月19日、マクロン大統領が2017年9月に発表したEU再構築構想(ソルボンヌ・イニシアティブ)の中で提案し、2018年6月に独仏首脳が設立で合意したユーロ圏予算について具体的な合意内容をユーロ加盟国に提示しました。EU改革を全力で進めたいフランス政府にとっては大きな前進でしょう。ブルノ・ルメール経済財務大臣は同日、「1年前はユーロ圏予算という言葉を口に出すことさえできなかった。今日、ここに独仏が合意した具体的な予算案がある。政治的に大きく前に進んだ」と胸を張りました。

 

その内容は、というとマクロン大統領の提案していたものから程遠いと伝えられます。例えば、ソルボンヌ・イニシアティブではユーロ圏予算を「ユーロ圏GDPの数%の規模」を想定していたのが、今回、独仏が合意した内容では「数100億ユーロ」にとどまっているというのです。本来なら、ユーロ圏GDPの1%と想定してもざっと1,100億ユーロ。うん、やっぱ少ない。メール大臣によれば、これを出発点にこれから大きくしていくとのこと。ちょっとずつ「共通予算」に対するドイツの抵抗を切り崩しくということなのでしょう。

 

このユーロ圏予算、マクロン大統領の提案では2つの役割があり、ひとつは将来の金融・経済危機に備えること、もうひとつはユーロ圏内で構造化した経済格差を是正するため、経済が脆弱な加盟国に対しイノベーション、研究開発、人材教育など投資する資金を確保すること。欧州で反EUを掲げるポピュリズムが台頭する背景に、2008年のリーマン・ショック以降、顕在化した加盟国間の経済格差があると見ています。とくに金融危機以降、EUが求めた緊縮財政を実施してきたイタリアは、債務危機こそ免れたものの、経済は困憊、国民の生活は豊かにならず、これが現在のポピュリズム政権を生む原因になったというのです。

 

欧州委員会で経済・財政問題を担当し、イタリア政府と現在、2019年予算法案の見直しで交渉中のピエール・モスコヴィシ氏(フランス元経済財務大臣、社会党出身)は9月25日のロイターとのインタビューで、欧州におけるポピュリズム台頭に歯止めをかけるために経済格差を是正する予算の導入だと説明しています。「ポピュリズムは民主主義、自由民主主義、法治国家への大きな脅威だ。この問題の解決は欧州のさらなる統合が必要となる。欧州危機はもはや経済危機ではない。経済格差の問題であり、政治危機だ。(加盟国同士の経済レベルを均一化するために)もっと分配するべきだ。ユーロ圏改革はその問題解決のためのものだ。極めて政治的な改革なのだ。」

 

独仏合意案がユーロ圏加盟国の支持を得られるかは不透明です。ドイツ以外にも北欧諸国は共通予算の導入に対する抵抗が強く、その必要性に懐疑的な声が多いと聞きます。「財政規律を重視する北欧から、放漫財政の南欧におカネを分配するシステム」になるのを懸念しているようです。北欧8カ国(オランダ、アイルランド、フィンランド、エストニア、リトアニア、ラトニア、デンマーク*、スウェーデン*)は2018年3月、マクロン大統領のユーロ圏改革を支持しない声明を発表していました。まずは南欧が構造改革を実施し、財政を健全化するのが先決、との考えなんですね(*ユーロ非加盟国)。

 

マクロン大統領はポピュリズム旋風が吹くのを抑えるため、2019年5月の欧州議会選挙前にユーロ圏共通予算の導入を決定し、EU改革に向けた実績を示したいところ。間に合うかな?

EUのドイツ化進む?

仏「リベラシオン誌」に欧州政治コラムを持っているジャン・カトルメール記者。2018年のEUインフルエンサー・ランキングで第3位に入りましたね。隠れファンなのでうれしいです。彼のドイツに対する見方は厳しくて、「EUのドイツ化」を懸念する記事をよく書いています。メルケル首相が2021年での政界引退を発表した際には、「親愛なる論説記者たちへ、マクロンがメルケルという最良のパートナーを失ったと書くのは、やめてくれ。冗談じゃない!2007年以降のメルケルはEUにとり、どうしようもないほど破壊的な存在だったじゃないか。彼女は欧州について何らかの見解を持ったことなんかないし、ユーロ圏の危機を引き起こした責任は彼女にある」(10月25日)とツィ―ト。EU構築に関わるメルケル不能論を繰り返していました。

 

こういう見解をもったフランス人識者は少なくなく、欧州問題研究機関「ロベール・シューマン財団」のジャン=ドミニーク・ジュリアーニ氏は『メルケルは本当に親EU派であったことはない。リスクをとることを厭わなかったヘルムート・コール前首相と対照的に、メルケルはドイツの国益を守るために動いてきた。彼女の欧州ビジョンははっきりせず、いつも受け身で、移民などの危機に対応してきただけだ』と指摘しています。さらにジュリアーニ氏は『CDUの党首にクランプカレンバウワー幹事長が就任すればフランスにとり間違いなくグッドニュースになる。ドイツはやっとマクロン大統領の構想に答えることができるようになるかもしれない』(10月31日付けル・フィガロ紙)とも。メルケル引退を歓迎するような口ぶり・・・

 

メルケルのドイツが自国優先主義でEUビジョンを持たないとする一方、EU機構は逆にドイツが支配、しっかり権力を掌握することで、EUがドイツの思想・国益を反映するしくみになっているというのが、カトルメール記者の主張です。確かに、EU機構のトップはドイツ人が多い!政治面では欧州委員会の事務局長(マルティン・ゼルマイヤー)のほか、欧州議会における二大会派グループの代表(欧州人民党のマンフレート・ウェーバー、社会民主進歩同盟のウド・ブルマン)、金融・財政関連では欧州投資銀行(ヴュルナ・ホイヤー総裁)、欧州安定メカニズム(クラウス・レグリング総裁)、単一破綻処理委員会(エルケ・ケーニヒ委員長)、欧州会計監査委員(クラウスハイナー・レーネ委員長)とドイツ人ばかり。これでマンフレート・ウェーバーが欧州委員会のユンケル委員長の後任として選ばれれば、さらにドイツ色強まる!

 

なんだか知らず知らずのうちにEUのドイツ化が進んでいる感じ。フランス人を含め、こういう事実を知らない欧州市民は多いと思う。「欧州市民は本当にドイツ人に統治されることを望んでいるのか?(カトルメール記者)」どうなんだろうね?

欧州議会最大会派EPP、欧州委員長候補を選出。マクロン大統領はEPPの内部分裂を狙う。

2018年11月8日、中道右派の最大会派「欧州人民党(EPP)」はフィンランドの首都ヘルシンキで開かれた党大会で、2019年5月の欧州議会選挙に向けた同会派の候補者名簿順位1位に同会派の代表を務めるマンフレート・ウェーバー欧州議員を選出しました。ウェーバー議員は独バイエルン州出身で同州の「キリスト教社会同盟(CSU)」に所属、2004年から欧州議員を務めています。EUの政策執行機関である欧州委員会の委員長は、欧州議会選挙で多数派となった会派の候補者名簿順位1位の欧州議員が選出されるという仕組みになっているため(注)、事実上、ウェーバー議員が2019年秋に退任するユンケル欧州委員長の後任候補者に選ばれたことになります。

 

ウェーバー委員長誕生には、EPPが2019年5月の欧州議会選挙で多数派となることが条件になります。EPP(全751議席のうち215議席))の中で最大議席数を握るのは、メルケル首相の「キリスト教民主同盟(CDU)」CSU(34議席)。これにフランス保守「共和党」20議席が続きますが、いずれの政党も国内で支持率を下げているところ。CDU-CSUは10月に行われたバイエルン州、ヘッセン州の州議会選挙で議席数を落としたばかり。フランスの共和党もフィヨン候補が大統領選でマクロン氏とルペン党首に敗北したことから、今でも支持率を回復できていないし、ローラン・ヴォキエ党首に求心力がなく、党として漂流が続いている状態です。一部の報道ではEPPは次回選挙で50議席ほど議席を減らすのではないか、単独で多数派をとれないのではないか、と予想されています。

 

これは欧州議会の既存二大政党である保守EPPと中道左派「社会民主進歩同盟グループ(S&D)」を粉砕し、EU改革に向けた自身の政治勢力を創り出したいマクロン大統領にとっては追い風でしょう。欧州議会選挙を「進歩主義者(親EU)」と「国家主義者(反EU、極右・ポピュリズム)」の戦いに集約し、2017年のフランス大統領選のように「反極右」旋風で勝利をつかみたいマクロン大統領。国家主義者のリーダー格であり、マクロン大統領を「政敵」とするハンガリーのオルバン首相がEPPに属していることから、EPPに対し「我々は多くの課題についてメルケル独首相とハンガリーのオルバン首相の両方を支持することは不可能だ」と政治ポジションを明確にするよう迫っています。

 

ウェーバー議員がオルバン首相と親しい間柄であること(両者ともにキリスト教思想を欧州の共有価値として擁護)は周知の事実。ウェーバー氏は、9月に行われたハンガリーへの制裁を求める欧州議会の決議案にこそ、各方面からの圧力を受けて賛成票を投じたものの、除籍を求めるユンケル欧州委員長(EPP出身)ほどオルバン氏に対して強硬な姿勢を示していません。フランスの欧州問題担当大臣でマクロン大統領の「懐刀」といわれるナタリー・ロワゾー女史は11月8日、「EPPはつい数か月前まで(反EUで国家主義者である)ハンガリーのオルバン首相を擁護していたウェーバー氏を候補者名簿1位(欧州委員長候補)に選んだ。報道の多様性への抑制、法の独立性への脅威など、ハンガリーがEU創設の価値を違反するリスクを抱えているのにもかかわらず、だ」(ツィッター投降後、削除)とEPPの決定を強く批判しました。オルバン=ウェーバー・ラインを叩くことで、EPPの内部分裂を狙うものとみられます。今回のEPPの候補者に立候補しウェーバー氏に敗れたアレクサンデル・スタッブ前フィンランド首相は、オルバン首相に対し「我々の価値を尊重するか、EPPを離党するか、どちらかだ」と言及していました。

 

他方、欧州議会の第4政党である「欧州自由民社同盟グループ(ALDE)」(全751議席中70議席)は11月10日、マドリッドで行われた党大会で、マクロン大統領の与党政党「共和国前進」と「国家主義とポピュリズムに対抗するため共闘する」ことを決めました。「保守EPPが最大会派として欧州議会を支配する構図を覆す」とし、EPPや左派中道「社会民主新法同盟グループ(S&D)」など他の会派からマクロン大統領のEU構想に賛成する議員の参加を呼び掛けていています。また同グループの候補者名簿の1位となる議員に「我々はウェーバー(46歳)のような年寄りを選ばない」とし、フランス大統領選を39歳の若さで制したマクロン大統領のような若くてカリスマ性を持つ人物を選出するとしています。

 

(注)当初、欧州委員長はEUの政策決定機関であるEU理事会で各加盟国首脳の協議により選出されていたが、2014年の制度改正により、選出するのはEU理事会でも、就任には欧州議会での承認が必要となった。また欧州議会は民主主義を反映させるという理由で、欧州議会選挙で多数派を形成した会派の候補者名簿1位の議員しか委員長として認めないとの原則を定めたことから、事実上、各会派の候補者名簿1位の議員が欧州委員長の候補者に絞られることとなった。欧州議会の最大会派である右派中道「欧州人民党グループ(EPP)」で最大議席を握るのはドイツの右派CDU-CSU。ドイツ政府の意向が欧州議会に通りやすい構図になっている。今回の候補者選びでもウェーバー議員はメルケル首相の事前承認を得ていた。

https://twitter.com/lafautealeurope/status/1056134868613193728

 

チェコのバビシュ首相、マクロン派?オルバン派?

10月26日付けルモンド紙に載ったチェコ共和国アンドレイ・バビシュ首相のインタビュー記事:欧州議会ではマクロン大統領の与党政党「共和国前進」が属するリベラル会派「欧州自由民主同盟(ALDE)」に参加しながら、反移民・反EUで非自由主義を唱えるハンガリーのオルバン首相とはEUが決めた移民受け入れ分担拒否で共闘する。彼はマクロン派? オルバン派?

  • オルバン首相、ハンガリーの保守党フィデスは保守系最大会派「欧州人民党」に属している。私はALDEに属しているが、同会派のヒー・フェルホフスタット元首相とすべての点で意見を共有しているわけではない。移民問題では、意見を異にする。
  • 2019年5月の欧州議会選挙後、マクロン派と組むか、オルバン派と組むかとの質問に、今のところはわからないが、欧州委員会が発令する指令の数を減らすことが必要だと考える(というリベラルな意見を支持する会派と組む)。
  • 私は親EU派。英国のEU離脱だけでも危険であり、これ以上の欧州分裂はいらない。ロシア、米国に対抗するためには欧州が一つになることが重要だ。
  • 対ハンガリー制裁措置手続きの開始に反対したことについて、ハンガリーやポーランドに審判を下すのは、両国の国民であり、わたしではない。有権者が選挙を通じオルバン首相やカチンスキPiS党首への不満を表明すべきだ。
  • チェコの議会が同性婚を認めるのであれば、私は同性婚に反対しない。
  • 難民やシリア孤児の受け入れを求めるユンケル欧州委員長について、同問題で欧州委員会が欧州を分裂させるのは残念だ。欧州議会選挙後、欧州委員長を新任するが(欧州加盟国の首脳が決めた候補者を欧州議会が承認する形)、(ユンケル委員長のような政治家を職業する者ではなく)生活者としての経験があり、欧州加盟国の実際を理解しようとする人物に勤めてもらいたい。
  • 今日、中欧4カ国が難民受け入れを拒否するのは、密輸業者が連れてくる違法移民が多く、支援制度がこの現状に対応していないからだ。欧州は国境、ライフスタイル、先祖から受け継いだ遺産、文化を守る権利がある。シリア孤児の支援は(孤児をチェコに連れてくるのではなく)シリアで支援施設を建設することだ。

欧州議会におけるチェコの議席数はハンガリーと同数の21議席。

現在は保守系「欧州人民党グループ(EPP)」7人、「社会民主進歩同盟グループ(S&D)」4人、「欧州保守改革グループ(ECR)」2人、「欧州自由民主同盟グループ(ALDE)」4人、「欧州統一左派」3人所属。極右「国家と自由の欧州(ENL)」に所属している議員はゼロ。

 

 

すでに欧州議会選挙での勝利を確信、イタリアの極右・ポピュリズム政権

イタリアのポピュリズム政党「5つ星運動」と極右「同盟」の連立政権が誕生して4カ月。難民受け入れ拒否や非自由主義への傾倒、欧州各国の極右政党との結束など、「同盟」党首で同政権の内相を務めるマッテオ・サルヴィーニの言動が目立ちますね。難民や移民の受け入れ拒否に関わるスピーチもそうですが、10月15日に連立内で合意に達した2019年予算法案も反EU色を強く打ち出していて、過激であります。

 

マッテオ・レンティ前政権が策定し、欧州委員会から承認を得ていた中期財政計画では、2019年の財政赤字はGDP比0.8%に設定されていたのに(2021年に黒字化)、今回、極右・ポピュリズム政党が合意に至った予算案では財政赤字(GDP比)を2.4%に大幅引き上げ。しかも、予算編成の前提となる実質GDP成長率を実際には1%に達しないと予測されているにもかかわらず1.5%と高めに設定しています。

 

このため、2019年の財政赤字は2.4%にとどまらず、ユーロ加盟国に課せられる3%を超えるとの見方もあります。現在、GDP比で130%を超える公的債務がさらに拡大する可能性もあり、米国の格付け調査会社ムーディーズは21日、イタリア国債を1段階引き下げ、ジャンク債の1つ手前、投資適格水準として最低の「Baa3」に格下げしました。ドイツ国債との利回り差(スプレッド)も300ポイントを超えています。

 

予算編成の見直しを求めるEUに対しイタリア政府は反発。コンテ首相こそ財政赤字を今後、緩やかに抑制していく姿勢を示したものの(2019年2.4%、2020年2.1%、2021年1.8%)、欧州議会選挙を前に、「5つ星運動」党首のルイジ・ディマイオ経済開発相(労働社会政策相)と「同盟」党首サルヴィーニ内相も1歩どころか「2分の1センチ(5ミリ)たりとも後ろに引かない」との強い姿勢を示しています。

 

だいたいこの財政赤字拡大の原因は、「人民のための財政」として両党が選挙公約した「毎月780ユーロ(およそ10万円)の最低所得保証制度」、「(所得税率や法人税率を同一にする)均等税の導入」、治安強化に向け「公務員1万人の増員」など、おカネがかかる政策を優先的に盛り込んだから。エコノミストでもあるジャバンニ・トリア経済財務大臣が財政赤字を2%未満に抑制するよう主張したのを、公約実行を優先するディマイオとサルヴィーニが押し切ったと伝えられています。

 

2019年5月の欧州議会選挙で極右・ポピュリズム政党が勝利すると確信するお二人。拡張的な予算編成でEUと対立することになっても、欧州議会選挙後、極右・ポピュリズム政党が一大勢力となって財政赤字のGDP比目標比率を3%未満と定めた安定成長協定を含む「EUの経済統治ルールを見直す」ことになるため、問題ないとみているらしいです・・・。ディマイオ党首は「欧州レベルで地震が起こる。ルールが変わる」とし、サルヴィーニ内相は「ブリュッセルの防空壕に立てこもるユーロクラット(EU機構の官僚たち)は5億人の(EU加盟国)有権者により失業に追い込まれるだろう」と過激な発言をしています。

 

今回打ち出した拡張的財政政策も、欧州議会選挙での勝利に向けた選挙対策のひとつと考えているのではないでしょうか。EUから脱退するのではなく、欧州議会選挙で勝利し、緊縮財政を押し付けるEUを内部から改革する。ルール・チェンジャーとして欧州議会を牛耳る。そしてこの戦略はどうもイタリア国民に広く受け入れられているようなのです。2018年9月の世論調査で連立政権の支持率は60%を超えました。親EU派であるマクロン大統領のフランス国内での支持率の2倍!!!ポピュリズム政党の人気は今のところ本物のようです。