EUとユーロの未来を考える

激動の欧州に暮らすピノピノさんのブログ。EUとユーロの未来を占うニュースをセレクトします。

欧州議会選挙で躍進が予想される極右政党グループ

欧州で台頭する極右・ポピュリズム政党。欧州議会で彼は結束し、一大勢力となるのでしょうか。その可能性が高まっているように見えます。

 

10月8日、極右「国民連合」のマリーヌ・ルペンはローマで極右「北部同盟」のマッテオ・サルヴィーニ内相と会談、「我々は移民、セキュリティー、国家主権といったファンダメンタルな価値観を共有しており、この価値観をベースに新たな会派をつくる」として、欧州議会選挙後、議会で多数派となるためのアリアンス作りで協力することで合意しました。サルヴィーニ内相は8月末にも、『非自由主義』を訴えるハンガリーのオルバン首相とミラノで面談。「移民を支援する」マクロン仏大統領を共通の政敵と定め、欧州選挙での勝利に向け共同戦線を張ることで合意していました。彼らが主張するように欧州議会選挙で各国の極右政党リストが躍進し、結束することになれば、欧州議会で「反移民」や「各国が主権を持った国家の集合体としての欧州」を提唱する一大勢力が生まれることになります。

 

現在の欧州議会の会派構成(総議席数751議席)をみると、最大政党である保守「欧州人民党グループ(EPP)」(仏「共和党」、独「キリスト教民主同盟」などが所属)が219議席、左派「社会民主進歩同盟グループ(S&D)」(仏「社会党」、独「社会民主党」など)が188議席、これに英国の保守党出身議員が中心となる「欧州保守改革グループ(ECR)」が73議席と続きます。

 

仏「国民連合」、イタリア「北部同盟」、オーストリア「自由党」、オランダ「自由党」など極右・ポピュリズム政党が所属する「国家と自由の欧州(ENL)」の議席数は35議席で少数派ですが、EPPに所属しているオルバン首相の出身政党「フィデス・ハンガリー市民同盟」(11議席)が欧州議会選挙後、極右政党会派に加わるとの見方が強まっています。EPPの中でオルバン首相が孤立を深めているからです。欧州議会は9月12日の採決で、オルバン首相が進める選挙制度・憲法改正がEU理念に反するとして制裁手続きに入ることを決定。欧州委員会のユンケル委員長は2018年10月13日付けル・フィガロ紙のインタビューで「EPPにもはやオルバン氏の居場所はない。私は彼をリスペクトしているが、彼の言動とEPPがベースとするキリスト教民主主義の価値観は相いれない」と明言しました。

 

ハンガリーの保守政党がEPPを去る・・・フィデスと政策路線をほぼ同じくする中欧の保守系政党もこの動きに同調するかもしれません。中欧の中でもハンガリー(21議席)、チェコ(21議席)、スロバキア(14議席)に比べ欧州議会における議席数が多いポーランド(52議席)の保守政党の動向が注目されるところです。ナショナリズムを押し出した保守与党政党「法と正義(PiS)」は英国の保守党出身議員が軸になって形成する保守政党グループ「欧州保守改革グループ(ECR)」に属していますが、この英国議員を中心とするECRは英国のEU離脱に伴い消滅することから、PiSの議員(現在は18人)が宙に浮いた状態になるためです。

 

ポーランドのもうひとつの保守政党で、ドナルド・トゥスクEU大統領の出身政党である中道保守「市民プラットフォーム(PO)」がすでにEPPに所属していることや、欧州委員会がPiSが策定した司法制度改正法案を巡り制裁手続きを進めていることなどから、PiSは極右会派と組む可能性が強いとみられています。このため「すでに欧州議会の周辺では極右勢力は欧州議会選挙後、EU機構を停止させることができるほどの力を持つとみる声が出ている」(2018年9月19日付けル・モンド紙)ようです。

 

極右・ポピュリズム政党グループが保守EPPを超える多数派になるとの見方は今のところないようですが、極右・ポピュリズムの声が欧州議会で益々強くなるのは間違いないようです。

マクロン大統領が苦戦、欧州議会選挙の行方

EU改革に向けたパートナーであるドイツがメルケル政権の弱体化から自国優先主義に傾き、イタリアが極右・ポピュリズム政権の誕生でユーロ加盟国に課せられた財政規律路線から外れ、中欧の先鋭化した保守政権が非自由主義をベースに「新たなEUの構築」を叫ぶなか、EUにおけるマクロン大統領の孤立が色濃くなっています。自身が打ち出したユーロ圏改革についても一部の改革(とりわけユーロ共通予算)に北欧8カ国(オランダ、アイルランド、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、デンマーク*、フィンランド*)が反対を表明(*はユーロ非加盟国)しており、四面楚歌に陥った感があるのは否めません。

 2017年9月26日にソルボンヌ大学で公表した『欧州再構築構想(ソルボンヌ・イニシアティブ)』の実績をアピールすることで、欧州議会選挙で攻勢をかけたかったマクロン大統領としては、この1年の欧州政治情勢の変化は想定外だったのではないでしょうか。

2018年9月12日に大統領府が発表した「ソルボンヌ・イニシアティブから1年」と題したブリーフィング資料をみると、同構想の中で「発議案としてまとまったもの、すでに加盟国の合意を得て実施に向けて動き出しているもの、発議案を検討中のものなどを含め、あわせて49の改正措置が実行された」とあります。主なものをあげると、①EU加盟国内における派遣労働者に関わる欧州指令改正について、「派遣期間も上限を12カ月とする」、「給与や社会保障に関わるコストを現地レベルに合わせる」、「不正行為の取締りを強化する」ことを求めたフランスの主張が盛り込まれた。②欧州委員会は欧州国境警備隊を2020年までに1万人増員することを提案した。③独仏両国は2018年6月19日、2021年までにユーロ圏共通予算を設立することで合意した(メセベルグ合意)。④フランスの発意を受け欧州委員会は2018年3月21日、米巨大IT企業GAFAに対しデータ売却益の3%を課税する案を発表した。⑤独仏両国は法人税の課税対象収入を協調することで合意した、など。

 『ソルボンヌ・イニシアティブ』が順調に動いていることを印象付けたいんでしょうけど、メルベルグ合意はドイツ側が実は陰で実現を遅らせる工作をしていると伝えられているし、GAFAへの課税についても米国の報復関税を恐れるドイツは秘かに廃案を望んでいる・・・『ソルボンヌ・イニシアティブ』はマクロン大統領が思い描いていたようには前進していないというのが大勢の意見です。

欧州議会選挙(加盟国ごとの比例代表制)で「汎欧州候補者リスト」を導入するという彼の提案も2018年2月に欧州議会で否決されたし、欧州・EUに関わる市民討論会も「フランスではこれまでに400を超えるイベントが実施され、3万人の市民が参加した」(首相府)そうですが、ル・モンド(2018年9月29日付け)によれば多くのイベントが開催されているものの「欧州民主主義の強い基盤を構築するほどの盛り上がりを見せていない」とあまり評価されていません。

こうしてソルボンヌ・イニシアティブが「構想」に終わってしまう可能性が強まるなか、国内ではマクロン大統領の支持率が急激に低下しています。10月5日付けレゼコー紙によると、マクロン大統領の10月の支持率は大統領就任直後の45%から15ポイント低い30%。2018年7月に大統領の側近が起こした暴力事件を契機に急落した支持率は、9~10月に首相に次ぐナンバー2、ナンバー3級の大臣が次々に辞任すると、さらに低下。マクロン大統領の不人気は長期化しそうな気配になってきました。

9月14日にル・フィガロ紙が発表した世論調査では、欧州議会選挙でマクロン大統領の与党政党「共和国前進」は21.5%を得票するものの、マリーヌ・ルペン党首が率いる国民連合(旧「国民戦線」)の得票率も21%と肩を並べています。欧州議会選挙では「共和国前進」と極右政党が第1政党を争うことが予想されます。また同世論調査で「欧州議会選挙で重要と思う課題は何か」という問い(複数回答可)で最も回答が多かったのが「家計購買力(35%)」。欧州レベルの政策課題である「移民(32%)」、「セキュリティー・テロリズム対策(27%)」を上回っています。国内の経済問題が欧州議会選挙の最大の争点になる!しかもマクロン大統領の経済運営で、今、最も批判にさらされている問題!国民が今のところ欧州政策より国内政策を優先させていることがわかります。これでは欧州議会選挙の結果はマクロン大統領の支持率低迷を反映してしまいそう。彼の経済・財政運営に反発を感じている「非エリート層」の票は、2017年の大統領選の時のようにアンチ・マクロンで結束を狙う極右政党に流れることになりそうです。

その極右政党のマリーヌ・ルペン党首は「反EU・脱ユーロ」路線から一転、「新しいEUを創ろう」と呼びかけるハンガリーのオルバン首相やイタリアのサルヴィーニ内相と同じ「EU改革」路線に転換しました。具体的な改革内容は相変わらずはっきり打ち出していませんが、大統領選の時に比べ随分マイルド路線になっているように思います。欧州議会選挙で「極右・ポピュリズム打倒」を掲げたマクロン大統領が敗北し、極右・ポピュリズムの政党グループが多数派をとる?そんな欧州は見たくないなぁ・・・

ドイツ、EU改革エンジンがストップ

10月14日に実施される独バイエルン州議会選挙。極右「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進で、ドイツ連邦議会でメルケル首相の「キリスト教民主同盟(CDU)」と統一会派を成すバイエルン州の地域政党「キリスト教社会同盟(CSU)」は大きく議席を落とすと予想されています。メルケル首相が率いるCDU/CSU、社会民主党(SPD)の連立政権内で内相を務めるCDUのゼーホーファー党首はメルケル首相の移民政策を批判。先日、東部ザクセン州ケムニッツで起こった外国人排斥を訴え、外国人狩りの暴動に発展したデモを擁護する発言を行って物議を醸しだしましたね。連立政権の崩壊を予想する声も強くなっています。2017年9月のドイツ連邦議会選挙から1年、連立政権の発足から半年・・・メルケル首相がここまで弱体化するとは思っていませんでした。

2017年5月。マクロン大統領は就任後すぐにドイツを訪問し、メルケル首相とともにEU再建に向け会談。メルケル首相を前にEU構想を語った、あのマクロン大統領の熱い記者会見の様子が思い出されます。EU再建を選挙公約したマクロン大統領には大きな痛手でしょう。ドイツが極右・ポピュリズムの台頭で「ドイツ・ファースト」に傾倒するなか、マクロン大統領の欧州再構築構想は構想のまま終わってしまうのではないかとの懸念が強くなっています。

9月20日付けレゼコー紙は「仏独エンジン、ベルリンは動かない」と題した記事の中で「マクロン大統領に運がないのは確かだ。彼が権力を握ると同時に、ドイツは政治不安に陥った。ドイツ総選挙とその後の政権樹立に向けた協議期間中、EU再建の議論は持ち越された。貴重な時間が失われたのだ。そのことを我々は今になって思い知らされている。欧州議会選挙が近づくなか、欧州で政治勢力の急進化(先鋭化)傾向がみられる。EUが解決しなければならない問題について加盟国から譲歩を引き出すのはより困難になった。EU改革の具体的な前進の成果を手に欧州議会選挙を迎えたかったマクロン大統領は、再度プロジェクトを提示するだけに終わりそうだ」と分析しています。

もともとEU建設は独仏の2か国が牽引してきたもの。いくらマクロン大統領がEU再構築に向けた具体的なプロジェクトを提案しようとも、ドイツ政府が動かないのであれば頓挫してしまいます。EU再建構想の柱であるユーロ圏改革について「ドイツはユーロ加盟国だけでなく、EU加盟国全体で議論することを望んでいる。一部の有識者はこれをドイツの『ユーロ圏改革を前進させない意思の表れ』と捉えている。」つまり、ドイツはマクロン大統領が提案するユーロ圏改革を表面上支持しつつ、実際には2018年7月のEU財務大臣会談で北欧8カ国が発表したユーロ圏改革反対声明を利用し、マクロン大統領の改革の動きを止めようとしているということなのです(北欧8カ国のうちデンマークとスウェーデンはユーロに加盟していません)。

またユーロ圏改革の目玉である「ユーロ圏共通予算の創設」についてマクロン大統領は2018年6月の独メセベルグでの二国間政府会議でドイツ政府から「共通予算」という言葉を使うことで譲歩を引き出したものの、マクロン大統領が提案していた「ユーロ圏のGDPの数%ポイントを予算に充てる」という具体的な数字については合意を得られなかったほか、「その後、何の議論もされていないし、欧州議会選挙を前に2018年末までに前進があるとは考えられない」とみられています(9月26日付けレゼコー紙)。

これじゃうまくいくはずないな・・・マクロンのEU改革。独バイエルン州議会選挙の結果が待たれます。

ドイツ東部の「反移民」「外国人排斥」暴動が怖い訳

先週、旧共産圏だった中欧4か国が「反EU」、「反移民」、「非自由主義的民主主義」に傾いている理由についてフランスの有識者の見解を書きました。同じことが今、外国人排斥運動が高まっている旧共産圏のドイツ東部(旧東ドイツ)にもいえるのではないかなと思っています。独東部ザクセン州ケムニッツで8月26日に起きた難民申請者2人(イラク、シリア出身)によるドイツ人男性の刺殺事件と、それを発端にした「反移民」を訴える大規模なデモ。極右集団ネオナチにフーリガンが加わり、一部は「外国人狩り」の暴動に発展してしました。

フランスも欧州の盟主であるドイツがポピュリズムの波に飲み込まれることについて「ドイツは普通の国ではない」だけに、大きな危機感を抱いているようです。とくに今回のドイツのデモ・暴動でショックだったのは「これまでになかったような極右の強い結束」が見られたこと。9月7日付けのルモンド紙は「ケムニッツ事件以前、ドイツでは極右のデモは二つにわかれていた。数十年もの間、定期的にネオナチはナチズム賞賛の小規模なデモを行ってきた。暴力沙汰はネオナチと(反ナチ)左派の間に限られていた。一方で(メルケル首相が100万人の難民受け入れを発表した)2015年以降、反イスラムを掲げた数万人の一般市民による暴力を伴わないデモ行進が見られるようになった。今回のケムニッツのデモ行進はこれまで別々に行動していたこの二つのグループを動員し、ネオナチ、フーリガン、PEGIDA(西欧のイスラム化に反する欧州愛国運動)に参加している『怒れる民衆』の強い結束を見せつけた」

「(ドイツ連邦議会で第3政党である)極右『ドイツのための選択肢(AfD)』や地方のエリート層は、暴動を腐敗した国家に対するレジスタンスのように正当化することで焚きつけた。さらに極右政党のリーダーたちは1968年、1989年に起こった民主主義的なデモと今回の暴動を同一視することで暴力を正当化し、一般市民を先鋭化することに貢献した」「ケムニッツで見られた極右集団、親右派の市民、右派エリートの結束は、穏健だったPEGIDA(西欧イスラム化に反する欧州愛国運動)が先鋭化する土壌となり、自己防衛を理由に暴力が正当化される新しいサイクルに入ったことを印象付けた。極右政党『ドイツのための選択肢(AfD)』、PEGIDAのような市民運動とネオナチの3つの勢力の結束は破滅への道だ」と分析しています。

今回の暴動を1930年代にドイツがナチズムに傾倒していった現象と重ね合わせてみているんですね。国際政治学者ドミニク・モイジも9月10日付けレゼコー紙の「ドイツは普通の国ではないのだ」と題する論説の中で以下のように論じています。「ケムニッツでデモ行進を行った極右勢力は1989年ベルリン壁の崩壊の際の『我々はひとつ』というスローガンを持ち出した。あの時、旧東ドイツで国家主義と自由主義信奉者が結束したのに対し、今日のドイツ東部では国家主義がヘイトスピーチ・外国人排斥主義とひとつになった」「楽観主義者はドイツが『普通の国になった』という。わたしのようにドイツ史を悲劇的にみる者は、ドイツは普通の国になることはできないと考える。とくに普通になることが、人種差別や外国人排斥など暴力を意味する今日では。」

「ドイツで1933~1945年に生み出された歴史的な漂流に対するワクチンは政治モラルの低下や時間による記憶の風化で、もはや効果はない。ナチスと共産主義という独裁者に相次いで支配され、民主主義の経験を持たないドイツ東部ではよりそうだ。新しいワクチンはどこから生まれるのか?(反移民、非自由主義を唱える)ハンガリーのオルバン首相は『過去、欧州は我々の未来であった。今日、我々が欧州の未来なのだ』という。オルバン首相が提案する未来は、半世紀前に我々が経験した過去とそっくり似ているではないか。欧州を廃墟に化した過去と。」中欧やドイツ東部など旧共産圏でみられる国家主義、外国人排斥、極右・ポピュリズム台頭の現象は、第2次世界大戦前の欧州の状況に似てるっていう見方なんですね。

ポピュリズムは旧共産圏のドイツ東部だけでなく、大戦後、民主主義の再建に取り組んできた旧西ドイツにも広がりつつあるようです。ドイツ南東部バイエルン州では、2018年10月の州議会選挙を前に移民政策を巡り、メルケル首相の「キリスト教民主・社会同盟(CDU)」と連立を組む保守「キリスト教社会同盟(CSU)」が右傾化しています。メルケル首相がケムニッツの暴動を強く批判したのに対し、連立政権で内相を務めるゼーホーファーCSU党首は、逆にメルケル首相が100万人の難民受け入れを打ち出した2015年以降、「移民問題がドイツの諸問題の母体となった」と逆にメルケル首相を非難する発言をしました。今回の州議会選挙では極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進することが予測されているからです。

ナチズムの台頭を許した「過去」を猛省してきたはずのドイツが、あの「過去」を繰り返うとしている・・・フランスをはじめ欧州の他の国にとって、これほど怖いことがあるでしょうか?

ハンガリーやポーランド、中欧諸国が反EU、反移民、国家主義に傾くのはなぜ?

欧州で勢力を強める極右・ポピュリズムのリーダー格として注目を集めるハンガリーのビクトル・オルバン首相-9月7日付けのルモンド紙は2019年5月の欧州議会選挙に向けた議論の行方を分析する記事の中で、「主権を持った国家の集合体としてのEU、移民分担受け入れ拒否、キリスト教思想に基づいた文化的に統合した欧州」などを掲げるオルバン首相を、「EU/ユーロ圏の統合深化、欧州主権による移民問題などの解決、多文化主義」を提唱する仏マクロン大統領の対抗軸として位置付けています。

そしてオルバン首相と同盟を組む強力な政治家としてイタリア極右のマッテオ・サルヴィーニ内相、ポーランドの保守政党「法と正義(PiS)」のヤロスワフ・カチンスキ党首を挙げています。同記事によればカチンスキ党首は「9月3日、『EUに対する盲目的な服従を意味する親欧州主義』を弾劾するスピーチを行った。『西欧の過ち』『社会病巣』など弾劾しつつ、『EUはポーランド人の生活水準を引き上げるだけの手段に過ぎない』とするいつものレトリックを持ち出した」とのこと。

ポーランドはハンガリーと同様、非自由主義的な国内政策を進めてEUから条約違反と訴えられているし、キリスト教思想に基づいた欧州再構築とか、なんだろ、彼らが理想とする国の形が同じなのかな、現在の西欧を軸としたEUに対する反発が強いですね。ポーランド、ハンガリーの2か国に、チェコ、スロバキアを入れた中欧4か国(ヴィシェグラード・グループ)も「反移民」で結束していて、EUが決めた移民分担受け入れ義務を拒否。移民分担受け入れを迫るEUを「独裁主義」と批判しています。

 EU内の東西分裂の核となっている中欧4か国の頑な反EU、反移民、非自由主義的思想って何なんでしょう。いずれも1989年のベルリンの壁崩壊で旧共産圏から独立し、2004年にEUに加盟した国。何か4か国に共通する特殊な要因があるんだろうなと思っていたら、仏ラジオ局「フランス・クルチュール」で「欧州分裂」について専門家が議論する番組があり、その中で中欧が国家主義を掲げ、非自由主義的民主主義に傾き、西欧を批判する理由について、以下のようなコメントがありました。

https://www.franceculture.fr/emissions/repliques/la-fracture-de-leurope-0

出席者:アラン・フィンケルクロート(哲学者)、シャンタル・デルソル(哲学者)、ジャック・ルプニック(政治学者)

  • 中欧は1989年のベルリンの壁崩壊後、共産圏から欧州に戻ってきたが、すでにポストモダニズムに入っていた西欧とは違い、社会モデルは昔のままで、西欧より保守的でより宗教色の強いもので、西欧社会のことを全く理解していないところから始まったことを忘れてはならない。
  • 1989年のベルリンの壁崩壊後20年間、中欧はEU管轄の下に民主化、自由化、市場経済化を進めてきたが、過去10年間は国家主義が台頭、反EUに180度転換した。彼らにとりEUは不安材料となった。中欧の市民の7割はEUを信頼すると答えており、EU脱退を望んでいる訳ではないが、政治家はEU批判を展開、国家主義に傾いている。「別のEUへの変革」を要求している。
  • ハンガリーは過去に「欧州が欧州でいるために、ハンガリーがハンガリーでいるために」ナチズム、ソビエト連邦という全体主義に抵抗したように、(移民受け入れを強制する)EUに対するレジスタンスが必要と考えている。
  • 中欧は自由主義、多文化主義をベースにした西欧社会は見習うべきではないとみている。中欧は文化、宗教、言語など文化的アイデンティティを軸に国家を形成したモデルで、フランスのように多文化の人民を統合して国家を形成したモデルとは違う。
  • 西欧の社会モデルを退廃的と軽蔑する。政治的自由主義、同性婚や中絶を認める自由主義的社会モデルを否定し、中欧は伝統的で保守的な欧州モデルの最後の砦(擁護者)としての役割を果たすべきとの考え方だ。
  • 連帯という価値観からEUは加盟国に移民分担の受け入れを義務付けたが、中欧は各国の人民がその国の価値観に応じて受け入れるか、受け入れないか決めるべきだとの立場。
  • 中欧はポーランドを中心に出稼ぎなどで人口流出が続いた。働き手を中心に人口が減る中で、大量の移民流入は文化的なアイデンティティとして国家の存続を危うくするものと映る。これらの国で国家主義が台頭する背景にはこれがある。

 知識人の3人の間の会話で内容が高度でフランス語が難しいので、100%わかったわけじゃないんですけど、わたしは上記のように理解しました。というか、わかったようで、わかってないか・・・(汗)。

でも一番心に残ったのは、移民受け入れ問題で鮮明になった西欧と中欧が持つ欧州モデルの違いでしょうか。独メルケルは「欧州は共通の価値観を基盤」にしており、「移民受け入れは各国の選択ではなく、(連帯という価値観から)EU加盟国に課せられた義務だ」とするのに対し、オルバン首相をはじめ中欧の政治リーダーたちは欧州とは「欧州文明(歴史、文化、宗教、言語など)を共有する国家の集合体」であり、国境を閉鎖することで欧州文明やアイデンティティを守るべきだとする、この両者の違い。

 すごく難しかったけど、すごく面白かったわ・・・。

「極右・ポピュリズム打倒」を誓うマクロン大統領が打ち上げた欧州構想って何?

難しい・・・EUって難しいわ。欧州に住んで20年のピノピノさん。EUやEU加盟国について何も知らない・・・っていくことにこのブログを書こうと思いついてからやっと気づきました(汗)。いろいろネットで調べたんですけど、実は今もすっきり整理できていません。一般の欧州市民でEUについてきちんと説明できる人ってどれぐらいいるんだろ。EU理事会や欧州議会で何が議論され、何が決められたのか、なんて気にする人は少ないし、メディアもきちんとわかりやすく報道していないですね。

欧州議会選挙(各国別直接選挙、比例代表制)だって、前回の選挙でフランスの棄権率は6割。基本、皆さん関心低いです。欧州市民なのに、EUに対して遠い目をしてみてるところがある。もちろんピノピノさんにもその理由はわかります。自分が日常で直面する問題ってEUは解決してくれないじゃないですか。自国の政府、自分が住んでる市町村の議会で決められたことの方がずっと大事です。生活に直結するから。

そういう一般市民の認識を欧州再構築によって変えようとしているのがマクロン大統領のEU再構築なのかなと考えています。彼は2017年9月のソルボンヌ大学での講演で「より主権的で、より統合した、より民主主義的な欧州」というビジョンを打ち出します。その中でEUと市民の距離がここまで広がってしまった理由として「近年の(債務、金融、移民、治安などの)欧州危機は加盟国間における政策協調の不足を示すものだ。例えばユーロ圏は(ギリシャ危機などの)金融ショックに対応する有効な制度(欧州通貨基金、ユーロ圏予算など)を持たない。そのため、危機に直面するたび各国の政治家たちはEU・ユーロ圏の機能不全に責任を押し付けてきた。その結果、欧州市民にEUに対する不信感を植え付けることに成功したのだ」と分析しています。

また2018年8月末の外交方針を説明する演説の中でも「欧州全域で不信感が広がる。ブレグジット、極右・ポピュリズムの台頭、移民に関わる西欧・東欧の分裂、財政問題に関わる北欧・南欧の亀裂はその不信感の表れだ」とし、この不信感を取り除くためには「欧州主権の確立が唯一の解決策だ」と主張します。つまり極右の人たちが主張するように「移民が問題の温床」なのではなく、移民問題にせよ、金融危機にせよ、加盟国同士が連帯の意識を持ってしっかり協調して政策を施行すれば問題は解決できるという立場です。そして加盟国間の連帯システムを強化するためにEUの改革が必要だとするのです。

とくに①移民・治安・国防、②金融危機への対応(ユーロ圏予算とか欧州通貨基金とか)、③(アンチダンピング措置や外資規制など通じ欧州企業・産業を)守る欧州、④持続可能成長、⑤デジタル(データ保護、イノベーション促進)分野は、各国の国レベルで政策を決定するのではなく、EUレベルで政策を決め、実行すべきであるとします。こうした分野では「欧州主権が必要になる」というのです。そしてEUがこの「欧州主権」のもとに様々な問題を適切に解決していけば、市民のEUへの不信感が減り、極右やポピュリズムを支持する動きも収まると主張します。

彼は2017年の大統領選挙で極右に勝利した独自の戦略に自信があるのでしょうね。大統領選で決選投票まで駒を勧めながら、「反EU・反ユーロ」について具体的な政策を打ち出せなかった極右マリーヌ・ルペン党首は、早くから明確な政策プログラムを打ち出したマクロン氏に敗れ去りました。マクロン大統領は8月末はコペンハーゲンで、9月に入ってルクセンブルグで市民討論会に参加し、自身のEU構想を英語で直接、市民に話しかけました。欧州議会選挙でも大統領選同様、明確なプロジェクトをわかりやすく説明していけば、極右・ポピュリズムに勝てると考えているのはないでしょうか。

 

 

欧州議会選挙に向け、マクロン大統領の「反極右」「反ポピュリズム」の戦いが始まった!

2017年5月の仏大統領選で「EU再構築、極右・ポピュリズム打倒」を公約して当選したマクロン大統領。2019年5月の欧州議会選挙に向けた彼の動きが活発になっています。公約実現のためには何がなんでも欧州議会選挙で彼の「欧州構想」を支持する政党が多数派となってくれなければ困るからです。

先週は8月28~30日にEU加盟国フィンランド&デンマーク(ユーロ非加盟国)の北欧2か国を訪問しました。フランス共和国大統領がフィンランドを公式訪問するのは19年ぶり、デンマークを訪問するのは実に36年ぶりのこと。

実はフィンランドもデンマークも2018年3月に北欧8か国の財務大臣がまとめたEU再構築案にサインしていて、その中でマクロン大統領がドイツのメルケル首相を巻き込んで実施しようとしているユーロ圏予算などの抜本的な改革に反対しました。

今回の北欧2か国訪問は「フランスが提案するEUおよびユーロ圏の改革プロジェクトについて首脳や国民と率直に対話すること(マクロン大統領)」で北欧2か国を味方につけたい意向があったんですね。

一方、マクロン大統領が北欧訪問に出発した28日は、イタリア極右「北部同盟」のマッテオ・サルヴィーニ内相と非自由主義を宣言したハンガリーのヴィクトル・オルバン首相(保守派)がミラノで会談。「現在の欧州には、マクロン大統領が率いる移民を支援する政治勢力と、不法移民の流入を食い止めようとする我々の勢力がある」とし、両者はマクロン大統領を共通の政敵と定め、欧州選挙での勝利に向け共同戦線をはることで合意しました。彼らは「反EU」「反移民」でポジションが一致しているのです。

共通の政敵と名指しされたマクロン大統領は外遊先のデンマークで同日、「国家主義者やヘイトスピーチを賞賛する者たちに屈しない」と応酬したのですが、心の中では「ヤッター!こういう挑発を待ってたんだぜ!!」と叫んでいたようです。

ル・モンド紙は9月1日付けの論説でオルバンとサルヴィーニの共同声明は「マクロンにとり願ってもない贈り物となった。マクロンが進歩主義と呼ぶ親EU派と国家主義(反EU派)の対立は選挙戦に向けマクロンが望む対抗軸だ。マクロンの戦略は明らかだ。2017年の大統領選挙が極右・ポピュリスト政党のマリーヌ・ルペン党首を破ることに成功した対抗軸を欧州レベルの選挙でやろうとしているのだ。メルケル首相の政治力が弱体化するなか、欧州のポピュリストと対抗する進歩主義者を統合して選挙に向かおうとしているのだ」と分析しています。

 

極右・ポピュリストに勝つためには、市民が懸念する移民や治安問題について具体的で効き目のある政策プログラムの提言が必要でしょう。フランス大統領選でも、ルペン党首が「反EU・反ユーロ」のスローガン提示に留まったのに対し、マクロン大統領は具体的な政策プログラクを提示、選挙キャンペーンではひとつひとつの政策をクリアに説明することに力を入れ、当選後は同プログラムにある政策を実行することを公約しました。EU27か国は例えば移民問題について具体的で有効性がある政策措置を加盟国承認のもとに提示できるのでしょうか。そして欧州市民をうまく説得することができるのでしょうか。